InterCommunication No.15 1996

Monograph


100年後の電子バッタの生息数

 ある人工生物, 電子バッタが存在するとする.それはヴァーチュアル・ワールドに生息していて, 昆虫と同じように, 春に生まれて生殖を行ない秋には卵を産んで死んでしまう.1匹あたり, 卵を2個産んで, それが翌年全部電子バッタに成長する(繁殖率)と考えよう.最初の年に100匹いるとすれば, 翌年は, 2×100=200匹.再来年は, 2×200=400匹になる.式でかけば, Y=2X であり, n年後の電子バッタの数は, Xn=2Xn-1となる.
 だが, これでは, 年を追うごとに電子バッタの数は増えていき, 電子空間はバッタでいっぱいになってしまう.そこで, 数が増えすぎると, 次の年は減少するような仕組みを組み込む.最大数は, 1万匹とする.この1万匹を1で表現することとする.たとえば, X=0.42は電子バッタ4200匹を表わす.増えすぎると減少し, 減少しすぎると増える仕組みは, Y=2Xという式に, フィードバックとして(1−X )という値を乗じてやることで得られるY=2X (1−X )).つまり, 限界数1(1万匹)に近づくと, (1−X )の値は限りなく0に近づくから, 翌年の生息数は激減する.しかし, 電子バッタの数が0に近づくと, 今度は, (1−X )は, 限りなく1に近づくから, 式は, ほぼY=2Xと同等になって, また単純増加に転じる.
 このように, Y=2X (1−X )という式に純粋に従って, 生息数が決定される電子バッタの存在を仮定してみるわけである.
すると上で述べた, Y=2X (1−X )は, ある年の電子バッタの生息数と翌年のバッタの生息数の関係を表わしていると解釈できることになる.ヴァーチュアル世界だから, 突然台風が襲ったりとか, 新たな農薬が開発される, などという外的要素は一切入り込まない.0.4, 0.48, 0.4992, ……という推移は, 初年のバッタの数が, 4000匹だとすると, 1年目は4800匹, 2年目は4992匹になる, という推移を表現していることになる.従って, この計算を繰り返し行なってやれば, 100年後の電子バッタの数も, 1万年後の電子バッタの数も, 純粋に数学的方法で導きだしてやることができるわけである.
 以下では, この数式の振る舞いについて考察するが, 純粋にイメージを喚起するだけのために, 数式の後に電子バッタの生息数という観点から見た解釈をそのつど付すことにしよう.


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