展示室の壁に,作者の影を撮影した映像がほぼ等身大で投影されています.撮影時の光源とほぼ同じ高さになるようにプロジェクターが設置されているため,プロジェクターの光を遮る鑑賞者などの影と,映像の影の見分けがつかない状況が生まれています.
影は,光源とスクリーンとなる面(壁や床など),そして光源を遮る実体によって現われます.《Portray the Silhouette》の映像に登場するイメージとしての影は,実体から切り離された状態にあります.それでも作者が展示室内にいるかのような錯覚を覚えるのは,もともと影が実体なしには生まれえないことに由来しているといえるでしょう.そうした影のもつ実在感は,鑑賞者と作者の影とのインタラクションを誘発し,影という映像の原点といえる現象について考えるきっかけを与えています.
《Electric Shadows》でも,実写映像に映った影と,描き足された影という異なる影が重ねられています.ヴィデオを再生しながらその上にグラフィックを描き足すことができる機能は,作品が制作された1984年当時はまだ新しい技術でした.グラフィックの内容だけでなく,機材のメニュー表示やグラフィックの精度,描かれるスピードなどが丸ごと記録されている様子からは,技術が可能にする表現内容とは別に,その機能がもつ意味を作品によって明らかにしようとする作者の姿勢がみてとれるでしょう.
藤幡正樹 プロフィール
1956年生まれ.80年代初頭からコンピュータ・グラフィックスとアニメーションを制作,その後コンピュータを使った彫刻の制作を経て,90年代からはインタラクティヴな作品を多数発表.多様なアプローチにより科学と芸術の関係について探求を続け,メディア・アートの第一人者として国内外から注目されている.主な作品に《ビヨンド・ページズ》,《フィールド・ワーク》など.『アートとコンピュータ』『不完全な現実』など著書多数.
過去に参加した展示・イヴェント
関連イヴェント
「Anarchive No.6:
藤幡正樹」出版関連シンポジウム
出演:アンヌ=マリー・デュゲ,入江経一,石田英敬,藤幡正樹
日時:2016年3月4日(金)午後6時30分より
[終了しました.]
|→ 詳細|