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はじめに
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展示作品




《パーフェクトリィ・ストレンジ》
作品解説 - オリビエ・ルノー
参加作家
 
1997年4月18日(金)〜 5月31日(土) [終了しました.] 東京オペラシティ1F,ICC 4F ロビー





展示作品


捉えどころのないものを捉える オリビエ・ルノー

「空き地」という呼び方は,荒れ地や見捨てられた土地を指す通常の用法をその文字通りの意味において越え,漠として捉えどころのない圏域というより広い概念へと拡がり出す.
公的なものと私的なものの狭間でヤン・コップがわれわれを導いていくのは,漠然としたものと曖昧なものが意に反してわれわれ自身の感情と感受性を操ってしまうような領域だ.都市空間から世界に張り巡らされたインターネット網にいたるまで,ドイツのこの年若い芸術家は公的な場所に設置された作品を通じて鑑賞者に省察の欲求を喚起させる途を模索してきた.
1993年にパリで行われたヒナゲシの丘のプロジェクトは,ある意味では翌年ベルリンのポツダム広場で行われたリヒャルト・ミュラーとの活動に引き継がれたともいえるが,このときヤン・コップが願ったのは,周辺住民の日常生活を動揺させたいということだった.都市の空き地に幾千ものケシの種を撒くことでその景観を突如として一転させ,かつて放棄された土地に新たな機能の形を付与したのである.
「道行く人々を眺める」(1996)というプロジェクトもまた,旧来の公的空間に関して同様に未来学を提示する重要な展開として捉えることが出来る.ジョルジュ・ペレックの作品,『パリの場所を消尽させる試行*1(半角上付)』で採られたプロセスをそっくり採用したヤン・コップは,作家と全く同じように,とあるカフェのテラスに腰を据え,日常の細々とした出来事を観察し始めたのだ.このようにして得られた枚挙にいとまのない細部を語るために彼が使用したのは,1人の女性舞踊家によるボディランゲージだった.ビデオに録られ,テラスに置かれたテレビのブラウン管に映し出されたそのパフォーマンスは,カフェの営業時間の間中,1ヶ月半にわたって続けられたのである.この新しい舞台を観た者は誰であれ,語り手が肉体によって語るさまざまな話を解読するために各々の感受性のうちに沈潜しなければならなかった.ここにおいてもヤン・コップは通行人を観察者に仕立て上げることで逆転,つまり窃視のプロセスの逆転に成功している.
インターネットがつくりだす公的空間の新たな形態に彼が惹かれ始めたのは最近のことだ.本人が強調しているように,インターネットは瞬く間に公的であると同時に私的な空間をつくりだした.彼のプロジェクトは,ホームページに訪れた者に暦に則って毎日違った質問をする.この提案は誰にでもアクセス可能であるから明らかに公的なものだが,各人は孤独に自分の端末に向き合うのだから私的な行為の上になり立っている.こうした魅力的な曖昧さは,他では実現困難なプロジェクトゆえに即座にヤン・コップをネットに向かわせた.今回の彼はインターネットの機能によって2つのインスタント写真撮影ボックスを連絡させ,それを使用する者に移動と身分証明について問いかけるのだ.
ヤン・コップが最終的に述べているが,おそらくインターネットでの実験で一番刺激的なのは,全く見知らぬ場所,いってみれば空漠とした地帯,つまり空き地で丸裸になっている自分を見いだすことなのである.

(美術批評)