一見すると普通のミュージック・ヴィデオのようですが,何かが少し違う様子です.このヴィデオでは,ある個人が作曲,演奏し,ウェブに投稿した楽曲に,あたかもそれを演奏しているかのように役者が演技をした映像が後からつけられています.つまり,楽曲を演奏し,歌っている人物と,演じている役者とはまったく別人であり,役者は曲に合わせた振り真似をしているのです.
これらの作品は作家が,ウェブ上に存在する膨大な投稿動画の中から見つけた無名の人物による楽曲に,オリジナルのミュージック・ヴィデオを制作したもので,作家はそれを聴いた証として,その動画をもう一度ウェブへ投稿します.*
現在,自作の曲や演奏の映像をウェブで公開することによって,作曲した音楽や演奏を不特定の人々に向けて発信することができます.それは,投壜通信のごとく,受け手が想定されておらず,誰に拾い上げられるとも知れない発信行為であるとも,また,誰かに届いてほしいという承認欲求を表わすものであるとも言えるでしょう.
この展示では,ほかに,このような現在のインターネットにおけるコミュニケーションのあり方から想を得て制作された,面識のない受け手が送り手を奨励する手紙,ウェブで公開されている複数の動画を編集し,元の映像とは関係のない字幕を新たにつけたもの,という3つの作品が展示されています.
※これらの作品には,クリエイティヴ・コモンズ・ライセンスが付与されている素材を使用しています.