空間の知覚の問題を追求しながらコンピュータ・アニメーションによる作品をつくりつづけるタマシュ・ヴァリツキーによる三つの作品を, ビデオ・プロジェクターを用いたインスタレーションにより「トリロジー(三部作)」として構成したもの. 庭に遊ぶ子供の情景を扱った作品《ザ・ガーデン》(1992)では,子供の視点を中心として球状に世界を構成する, 「水滴遠近法」と呼ばれる手法が用いられ,子供の視点によって世界を再構成する.どの方向にも無限に続く霧につつまれた枯れ木の森の中を漂う作品《ザ・フォレスト》(1993)では,前後左右上下どの方向に進んでも,同じような木がいつまでも続いているだけで,遠近法が部分的にしか有効性をもたない無限の構造が展開される.街を走るマラソン・ランナーをモチーフとした作品《ザ・ウェイ》(1994)では,遠いものほど大きく見えるという逆転された遠近法によって風景やランナーが描かれている.いずれもわれわれが無意識のうちに当然のものと考えている遠近法が通用しなくなるような夢幻的な空間がつくりだされ,日常の感覚との間に生じるずれによって緊張感をもたらしながら,新たな世界の見方を提示する.
『ICCコンセプト・ブック』(NTT出版,1997)より引用