インタラクティヴィティやヴァーチュアリティの研究を理論と実践の両面から続けるジャン゠ルイ・ボワシエによる作品3点の展示.《めだま》(1992–93)は,眼球にたとえられるトラックボールを動かすことによって,その回転とダイレクトに結び付いたインタラクティヴな映像の断片が現われるもので,目と手,見ることと触れることのあいだの関係をテーマとして,子供が世界を発見していく過程や芸術の生まれる過程をシミュレートした作品.《押し花》(1993)は,ハイパーメディアによる新しい書物としてルソーの『告白』を復活させた作品で,モニターの前に置かれた本をめくると,女性たちのふとしたしぐさや野に咲く花の映像が画面上に現われ,トラックボールの動きにしたがって移り変わってゆく.ボワシエがそれまで取り組んできた映画や写真などの作品から引用された画像を集めた《アルバム》(1989–95) は,本を読むこと(レクチュール)と映画を見ること(スペクタクル)という二つの芸術体験のあり方をハイパーメディアのなかで合体させた.観客はインタラクティヴに反応する映像と音の断片によって,新たなリアリティを獲得していく.論理を代表する「ソフトウェア」がコンピュータの画面を通じていかに「感性的なもの」になりうるかという「感性と論理」の関係を追求した展示である.《アルバム》では,パリ近郊で同時期に開催された個展の会場と国際ISDN回線で結び,映像ファイルをやりとりすることによって,新しいページを付け加えてゆくという試みが行なわれた.
『ICCコンセプト・ブック』(NTT出版,1997)より引用