三次元の立体映像がリアルタイムに変化していくなかで,生身の歌手が歌い,俳優が演じる新しい舞台芸術. 新しい技術やメディアはつねに芸術の表現形態を変革してきたが,舞台監督であるジョージ・コーツは,米航空宇宙局(NASA)エイムズ研究所,アップルコンピュータ,インテルなどと共同で,演劇とコンピュータを融合させた新しい芸術表現を研究してきた.コンピュータを箱から解放し,ステージという大がかりなものにどう使っていくかを追求するためにコーツは,SMARTS(Science Meets the Arts Society)という組織をつくり,シリコンバレーからエンジニアを集めて最新のシステムを構築した.
世界に先駆けて公開された《NOWHERE NOW HERE》では「ライヴマックス4D」という,俳優の動作に合わせてコンピュータ・グラフィックスやフィルム映像を制御するシステムを取り入れた. 舞台上では俳優が,突然消えたり現われたり,建物や壁を通り抜けたり,仮想の俳優にすりかわるなど,これまでSFX映画でしか遭遇できなかった世界を3Dメガネを付けた観客の目の前に展開した.
本公演は,個人レヴェルでの情報環境の変化として論じられることの多かったヴァーチュアル・リアリティやマルチメディアを,人々が共同で体験する舞台芸術へと展開する初の試みであった.
《NOWHERE NOW HERE》は,子供の想像性をテーマにした仮想世界のファンタジーである.ある少女が鳥から「魔法の呪文」を教わることによって,自分の姿や年齢,周囲の世界を自在に変えることができるようになる.少女は魔法の唄を歌い,植物をあやつりながら,不思議な電子の森の中を旅してゆく.
『ICCコンセプト・ブック』(NTT出版,1997)より引用