バストショットで描かれた,それぞれの画家が異なるアプローチによって描いた肖像画が,その制作過程を記録した映像とともに提示されています.それらの肖像画は抽象画風に描かれているなど,どれもが具体的な顔のイメージとは異なっています.
シンスンベク・キムヨンフンは,画家にある個人の肖像画を,「完成した肖像画が人工知能に顔として認識できないように」という条件に従って描くように依頼しました.画家が肖像画を制作しているあいだ,カメラと三つの顔検出アルゴリズムを搭載したコンピュータがキャンヴァスを監視しており,顔として認識された場合には,それがモニタに表示され,参加者に知らせます.画家はそれを参考にしながら,人工知能によって顔として認識されない肖像画を描いていきます.
対象を正確に描こうとすれば,人工知能は簡単に顔を認識します.しかし,顔が認識されないようにすればするほど,描かれたものはその対象から離れていき,肖像画とみなすことが難しくなるでしょう.そこで,人工知能は顔として認識できないけれど,人間はそれを人の顔とみなすことができるという,人間だけが肖像画として認識できる視覚的な領域を見つける必要があるのです.