ある装置がゆっくりと動いています.一見してその用途や目的を正確に想像することは難しいものの,どうやら人が腹ばいの姿勢で乗ってさまざまに姿勢を変えて(または変えられて)用いるもののようです.
本作品は,稲垣足穂とエドウィン・リンクという人物にまつわる,実際に飛行することを目的としない二つの「飛ばない飛行機」を出発点としています.二人はともに20世紀初頭生まれで,飛行機開発の黎明期に幼少期を過ごしています.文学者の稲垣足穂は,まだ実用性一辺倒になる前の「飛ぶこと」自体を目的とした黎明期の飛行機に惹かれ,その「感じ」をとらえるために模型飛行機の製作に情熱を傾けました.そして,実用性を失った,飛行の不可能性を象徴するものとして「空中飛行器」という言葉を好んで用いました.エドウィン・リンクは,リンク・トレーナーと呼ばれる初期のフライト・シミュレーターの発明者です.これは夜間や悪天候など視界不良時にも計器を見ながら操縦できるように訓練するための装置で,実際に飛行することは目指されていないものでした.
小林はこれまで,目的のない動作を続けるキネティックな作品を発表してきました.本作品の装置には用途や目的がありますが,足穂やリンク・トレーナーへの関心からは,機能や目的,実際の使われ方の関係がねじれた状態への一貫したまなざしが感じられます.小林は人間が自身の身体だけでは不可能な飛行,そして飛行と切り離すことができない落下について,装置を自分で設計・製作することによって探求しようとしています.
制作協力:本山ゆかり
映像撮影:小池奈緒