SUGAIは,イヴェント趣旨や会場の立地または成り立ち,開催日などの文脈を巧みに織り込んだ一回性の高いライヴ・パフォーマンスで知られています.本作品は,2024年にSUGAIが九州大学大学院芸術工学研究院の無響室でパフォーマンスを行なったことをきっかけのひとつとして制作されました.
無響室は,音の反射や反響がないため,空間的な特性を聴覚で感知することが難しい空間です.そのため,ある種白紙の状態から音の響きを設計し,実在・非実在を問わない別の空間にいるかのように「擬態」することができます.ICCの無響室でも,この特性を活かして,サウンド・アーティストたちによるさまざまな試みが行なわれてきました.
一方で無響室では,その極めて人工的な空間的特殊性に鑑賞者を対峙させるという方向性で展示をすることも可能です.本作品でSUGAIは,家鳴り音や,特殊な設定でバイノーラル録音した無響室での足音などを高精細なスピーカーで鳴らすことにより,音が展示室内であたかも発生しているかのような錯覚を誘発し,在るはずのない誰か(もしくは何か)の気配を出現させます.それにより,「ここではない何処か」への架空トリップではなく,「今ここにいること/在ること」への聴覚的な揺さぶりを志向しています.
監修:城一裕
特別協力:畠中実