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ICC コレクション

《CAVEの共同[形]成》 [1997] “conFIGURING the CAVE”

アグネス・ヘゲドゥシュ+ジェフリー・ショー+ベルント・リンターマン+レスリー・スタック

《CAVEの共同[形]成》

作品解説

3D眼鏡をかけて空間に足を踏み入れると,圧倒的な立体映像と音響に包み込まれます.そこでは,美的,概念的に異なる七つの世界が展開されています.中央に設置された木製人形の関節を動かすと,世界のパラメータが変化します.例えば眼を覆うポーズは世界そのものを切り替えてしまいます.CAVEによって,身体・空間・言語の多様な関係性を探る旅へと導きます.

CAVEシステムについて

CAVEシステムは,米国イリノイ大学EVL(電子視覚研究所),NCSA(国立スーパーコンピュータ応用センター)によって開発された総合ヴァーチュアル・リアリティ空間システムです.正面,両側面,床面の4面の大スクリーンに投影される3D立体映像はCAVEのスペース内に浮かぶように映し出され,体験者がインターフェイス・デヴァイスなどを操作することによりさまざまな角度から映像を体験することができます.

このインタラクティヴな3D立体映像は,CAVEソフトウェアを用いてシリコングラフィックス・クレイ社のグラフィックスシステムOnyx Infinite Realityにより生成されます.グラフィックス処理性能の優れたOnyx Infinite Realityは,体験者の操作に合わせて,リアルタイムに高品質な映像シーンをレンダリング処理し,CAVEシステムの没入感覚を極めたヴァーチュアル・リアリティを可能にしています.

アーティスト

展示情報

関連情報

作家の言葉

タイトル

このアート・インスタレーションのタイトル《CAVEの共同[形]成》には二つの意味がある.第一に,それはアーティストが,CAVEのもつ独特の包みこまれるような視覚イメージを完全なかたちで表現しようとしたということであり,第二には,この作品が「身体」と「空間」との自然な結合を示し,「身体模型」[人形]をその多様な空間的表現のためのインタラクティヴな焦点として用いることを主題として含んでいるということを意味している.

映像表現

この作品には異なった7つの「世界」がある.それぞれの世界は異なった概念的・美的特徴を観客に対して提示しており,全体として「身体」「空間」「言語」がもつ多様な関係性の,一貫性のある探求となっている.コンピュータ画像は,形態が複雑に変化することを可能にするアルゴリズムとソフトウェア(ベルント・リンターマンによる「xfrog」)によって産み出されている.有機的関係をもった抽象物が,表象的かつ象徴的な形態と結び付くことで,強い独自性をもった,表現的にも高度な三次元映像空間がCAVE内部で産み出される.

インターフェイス

インターフェイスは典型的な木製人形(マネキン)を用いている.精密に構成された金属骨格を持ち,その関節部のすべてに測定機器を備え付けた大きな150センチの人形が制作された.CAVEの中心に固定されたその人形の身体を,観客は好きなように動かすことができ,それによって人間の身体情報データを視覚化を行なうコンピュータに送ることになる.このようにして人々が人形を扱っているその状態によって,映像の変化がインタラクティヴに決定されるのである.人形の関節を動かすことで,イメージを産み出すソフトウェアに変化するパラメータを与え,ある特定の人形の動きは特定の視覚的現象につながる(たとえば,手で眼を覆うという動作は7つの「世界」のうちのひとつから,別 のものへと切り替わるきっかけをつくったり,あるいは人形を回転させると視覚空間も回転したりする).

観客

インターフェイスとなる人形に,ある一定の大きさと関節が備わっていることにより,4人まで同時にCAVE内部の映像に協同的に相互作用を及ぼすことができる.このようにして,この作品とのインタラクティヴな体験がその場において多くの観客と共有されることになる.

視覚的空間の三次元的性質が高められるような音環境を生成するため,このインスタレーションにおいては8チャンネルの空間化された音響システムが使用されている.7つの異なった視覚空間のために,それぞれ音楽が作曲されている.これらの音響システムは,(映像同様に)観客が人形をどう扱うかによって変化し,その結果リアルタイムに同期した音響-視覚変化の同時的な統一性を産み出すことを可能にしている.

(アグネス・ヘゲドゥシュ+ジェフリー・ショー+ベルント・リンターマン)

作家紹介

ジェフリー・ショーは1960年代後半から新しいアート・フォームの開拓者として実験を繰り返し,多彩な作品を発表してきたが,その彼の軌跡には一貫してダイアローグの精神が流れている.おそらくその精神の持続こそが彼を中心に特別な運動の渦が次々と生まれてきた要因と言えるだろう.

たとえば,ショーはわれわれの生きるこの時代において最も興味深いことは現実の世界にとどまるのでも,仮想の世界にのめりこむことでもなく,過去の体験や現実空間との対話のための仮想空間をつくりだすことではないかと問いかける.つまり片足を現実空間に,片足を仮想空間にかけているような境界状態のなかで創造されるものこそが彼の最も重視するものなのだ.

ショーの新しいテクノロジーに対するスタンスにも同じことが言える.日々進化する新しいテクノロジーの展開はたしかに魅惑的で興味深い領域を生み出していることは間違いないが,他方でそうしたテクノロジーは生命体としての人間のリアルな経験の複雑さと比較すると,あまりに貧弱でしかないケースが多い.つまりわれわれは絶えずその間を行ったり来たりするしかない.そのような状態のなかでテクノロジーに新しい意味を与えることがつねに求められてゆく.

こうした境界領域や過渡期の精密な把握と,自分が過去の経験と未来の経験に橋をかける世代であることの正確な認識が,ショーの作品に独特な対話の精神を内包させてきたと言えるだろう.

さらにショーは新しいメディアを用いてアートに新たな次元を与えるとき,当然のようにほかのアーティストやエンジニア,プログラマーらとの積極的な対話やコラボレーション(共同制作)の試みも行なってきた.

今回の作品《conFIGURING the CAVE》は,良きパートナーであるアグネス・ヘゲドゥシュとベルント・リンターマンとの共作である.コミュニケーションのための仮想空間をゲームのメタファーを通して生成させた作品や,感覚の転移,身体の再編を試みる作品などを制作してきたヘゲドゥシュの存在は,新作に多元的な奥行きと知性を与え,人工生命を基本にしたリアルタイム・アニメーションやウェッブ上でのインタラクティヴな仮想彫刻を手がけてきたリンターマンの参加は,新作にかつてない精度と臨場感を加味させている.

ショーにとってアートとは幅広い対話のメカニズムであり,イマジネーションを具現化する領域である.そしてさらに重要なのは見る者との対話であり,アートと見る者の間に存在する四次元空間なのだ.見る者はその空間のなかで認識と体験を組み換えられ,再創造される.そのプロセスこそが彼が長い間こだわり続けてきたものと言えるだろう.

(伊藤俊治)

クレジット

アーティスト:アグネス・ヘゲドゥシュ,ジェフリー・ショー,ベルント・リンターマン
音楽:レスリー・スタック
音楽のための動作解析:ジョナサン・バカラック
パペットデザイン,エンジニアリング:フラウェンホーファー研究所IAO(シュトゥットガルト)
制作サポート:ZKM(カールスルーエ・アート・アンド・メディア・テクノロジー・センター),フラウェンホーファー研究所IAO,ボストーク,デイヴィッド・ディヒーリ

作品一覧