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ICC コレクション

《バイワン・ゲットワン》 [1997] “Buy One Get One”

シュー・リー・チェン

《バイワン・ゲットワン》

作品解説

弁当箱を模したデジタル・スーツケース.作家はこの作品と同じスーツケースを持って世界中を旅し,各地で撮影した画像やメッセージを,拠点としての「家」であるICCのホームページに逐次アップロードしました.観客は作家と同じスーツケースによってそのホームページを見ることで,作家の軌跡を追体験することができます.

ICCビエンナーレ ’97 準グランプリ作品
http://www.ntticc.or.jp/HoME/

アーティスト

展示情報

関連情報

作家の言葉

バンコク市,シローム・ソイ,スフィンクスでの楽しいひととき
《バイワン・ゲットワン(一つ買えば,一つもらえます)》は
他人のパスワード,破れたIDカード,ホームページ,ホームレスページを用いてアクセスするサイバー住宅提供プロジェクトです.
なお,2か月間のアクセス番号はhttp://www.ntticc.or.jp/HoMEです.
日本の弁当箱を模した2個のデジタル・スーツケースにはノート型パソコン,カメラ,マイク,移動電話,そして日の丸弁当が入っており,インターネットを通じてHoME(ホーム)デリヴァリーが可能です.
「ICCビエンナーレ ’97」展が開催される2か月間,テレコミュニケーション・ネットワークを通じて私どもはHoME(家)をご提供いたします.
ローレンス・チュアのガイドにより,大陸間を吹く季節風に乗って,不満と欲望がいっぱいの旅行ルートをご案内いたします.
私どものHoME(家)はホームレスページでアクセスされ,ホームレスの壁紙で飾られます.
私どもは異常にからみ合う論理と不条理を越えて,永遠に増殖するメモリー・チップの密輸を行ないます.
世界をめぐる複雑なルート,あるいはルーツを有する身体という発想に戻ってみませんか.
あなた自身が世界を旅行するという行為は,何を意味するのでしょうか.
また,HoME(家)としてのスーツケースを持っての旅とはどのようなものでしょうか.
旅行の際,デジタル・スーツケースは連絡の中枢で,HoME(家)/サーバー・マシンへの緊急アクセス手段にもなります.
ついでに日の丸弁当を食べて,懐かしい植民地時代を思い出してください.
展示室ではデジタル弁当箱が,旅行者と各地の市場を結ぶインターフェイスになります.
中には梅干し,乳首,それに非常ボタンが入っています.
わからないときはとにかく押してみてください.
するとメモリー・チップがスクランブルし,混線したアクセスは,再プログラムが可能な自動制御装置によって元に戻ります.
私どもへアクセスする来館者もまた,この住宅提供プロジェクトの一部です.
バイワン・ゲットワン.
インターネットは今日の課題です.
超ハイパーな勢いでアクセスを拡大しています.
アフリカのサファリは,大陸へのアクセスを行なうとか.
でも大陸では,電話が設置されていないんです.
ちなみに電話代は,誰が払うんでしょうね.
世界へのアクセスが自動的にパッケージされたHoME(家)プロジェクトはJavaでプログラミングされ,永遠に増殖する大陸から発信される終わりなき買い注文に応じます.
バイワン・ゲットワン.
注文が注文を呼び,インターネットを介したHoME(家)へのアクセスは無限です.
バンコクの貧民街のどんづまりで,花束やパイナップルを売り歩く少年たちのように循環システムに縛られたわれわれの電子身体は,ボロイ商売に翻弄されていくのです…….

(シュー・リー・チェン/「ICCビエンナーレ '97」カタログから)

作家紹介

シュー・リー・チェンは,台湾に生まれ,約20年前にニューヨークに移住している.映画製作の世界で働いた後,1980年代にオルタナティヴなケーブルテレビ「ペーパー・タイガー・テレビ」に参画,ニューヨークのアート・シーンに登場した.

いわゆるテレビというメディアからのアプローチよりわかるように,彼女の作品は当初より,現代のメディアについてのメッセージを重視したものとなっている.具体的には人種差別や性などの社会問題とメディアのありかたについて,鋭い批判の眼を差し向けるものが多い.しかし,彼女の作品がそうしたいわば「社会派」的な作品にありがちなスノッブで抽象的なものに陥らない強度を備えているのは,彼女が常に,そうした社会問題の立ち起こるローカルなコミニティに,あらゆる意味で身体的に関わりをもつ,あるいはもとうとする姿勢によってもたらされている.また,制作の現場においてもさまざまな分野のスタッフとの積極的なコラボレーションを行なっており,その作品は常に社会や時代の臨場感を伝えるものとなっている.

アンダーグラウンド・カルチャー側からマスメディアの民族主義政策を告発した,94年の映画《フレッシュ・キル》に代表される,主に短編の映画やヴィデオの発表により注目された彼女であるが,いわゆるインスタレーションとしての作品としては,コインランドリーの洗濯機にヴィデオ・モニターを設置した90年の《カラー・スキームズ》に始まり,1993年の「ホイットニー・バイエニアル」における,公衆電話機を通じ25人の女性アーティストのメッセージを再生する《欲望にゆらぐオブジェ》,95年の《ボーリング場》,96年に沖縄および東京に長期滞在し制作された《エレファント・ケージ/バタフライ・ロッカー》などがある.

95年の《ボーリング場》において,電子メールによるディスカッションとホームページを作品の一部として取り込んで以来,近年はインターネット上のプロジェクトにその活動の中心を移しており,その意味では,この《バイワン・ゲットワン》は,インスタレーションとインターネット・プロジェクトという,彼女の表現スタイルの両面を伺える作品として興味深いものといえよう.また,現在進行中のインターネット作品として,グッゲンハイム美術館ソーホー分館ほかのスポンサーシップによる《ブランドン・プロジェクト》がある.元来,フィルムやテレビをその出自とする彼女にとって,空間や時間に束縛されるインスタレーションという表現手段,そしていわゆる美術という世界より,ヴァーチュアルで実体がなく,透明なメディアであるがゆえに逆にそのメッセージ性を際立たせられるインターネット上の「ウェブ」こそ,彼女が今,関わるべきコミニティとしてふさわしい場であろう.

(後々田寿徳)

クレジット

ライター/旅行同行者:ローレンス・チュア
Javaプログラミング:中西泰人
ハードウェア・インターフェイス:大榎淳
デジタル弁当箱制作:鈴木貴彦
http://www.ntticc.or.jp/HoME

作品一覧