《銃弾と弾痕のあいだ》は,発射された弾丸などの移動と挙動に関する学問の一分野である弾道学と,初期の数値計算における女性の役割についての映像作品です.1946年にアメリカ陸軍が弾道計算のために開発した最初期のコンピュータ,ENIACのプログラミングには6人の女性が従事していたことが知られています.第二次世界大戦において,弾道研究に従事した女性の主な任務は,二つの既知のデータ(発射地点と被弾地点)から,その間の欠けているデータを推測することでした.作品は,高速弾丸写真,弾丸波画像などの特殊な映像やコンピュータのパンチカードなどを用いて,この二つの点,弾丸と穴,加害者と被害者,存在と不在,といったギャップをいかに読み解くかを考察します.なお,弾道学は,現在の宇宙開発にも応用されるなど,軍事利用に留まらない科学研究分野となっています.《銃弾と弾痕のあいだで揺らめいて》は,その二つの点を見る角度によって絵柄が変化するように,レンチキュラー・レンズを使って制作された作品です.
オーラ・サッツは,インスタレーション,サウンド,映画,パフォーマンス,彫刻といった,各種の手法を横断的に扱い,調査研究にもとづいた制作を行なっています.それは,20世紀の発明の歴史における,技術の使用法,そして技術の進歩がもたらした,距離の知覚などの,コミュニケーションにおける文化的な変化を考察するものとなっています.