IT革命の本質とITベンチャーへの期待
――日本の選択/ビジネス・モデル特許/地球温暖化

月尾──光ファイバー化や無線化,9.6キロから数メガへの容量拡大,Bluetooth[★7]などが今後普及すれば屋内配線も要らなくなってくるというように,数年単位の変化も企業として追いかける必要があると思います.しかし,ではどういう変化が長期的なビジネスに適し,どういう変化が単なる一時的な流行に過ぎないかを見極めるためには,やはり,長期的な世界の方向性を確実に理解しないといけないと思います.

いま人間が考えるべき最も長期の戦略は,地球温暖化をどう解決するかということだと思います.これは300年単位の計画が要る問題だと言われています.ほんの100年前には大気中の二酸化炭素濃度は280ppm程度だったのですが,この100年間で360ppmにまで上がった.これを放っておけば,温暖化が起き,海面上昇が起こり,巨大な問題になっていく.これを防ぐことが,当面,人類が理解できるもっとも長期的な問題だと思います.

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のシミュレーションによると,仮に二酸化炭素濃度を現状の360ppm程度に留めようと決意したら,ただちに人為的な二酸化炭素の排出を減らし,今後70年程度で,1900年と同じ状態の二酸化炭素排出水準に戻すことが必要とされています.1900年とは,自動車の本格的な大量生産が始まった年です.大量生産といっても年間500―600台という規模でした.つまり1900年の時点で自動車を利用できた人は,せいぜい数千人です.また,空調技術は1907年頃に発明されました.つまり1900年には誰も使っていなかった技術です.つまり,いまから70―80年で自動車に数千人しか乗れない,空調はだれも使えない時代に戻していかない限り,環境問題は解決できないと言われているのです.

そうすると,われわれはエネルギー消費を減らし,二酸化炭素排出を減らす何らかの手段を使わざるをえない.その,一つの可能性が,紙の新聞をやめて電子新聞を使うとか,大量生産の商品ではなく注文生産の商品を使うというように,IT革命がもたらしてくれるものを社会の中に投入していくことです.つまり人類の最も長期的課題である地球環境問題を解決する大きな可能性を秘めているのがIT革命だと思うのです.

[2000年7月6日,東京大学]


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