IT革命の本質とITベンチャーへの期待
――日本の選択/ビジネス・モデル特許/地球温暖化

武邑──エネルギー的結合から情報的結合へのトップの意識転換がうまく進めば,ITで立ち遅れた日本は欧米に追いつけますか?

月尾──ITの分野では,日本は米国に5年以上遅れていると言われています.基本的にこの分野は「早い者勝ち」「一人勝ち」ですから,グローバル・スタンダードが通用する産業分野では日本の将来は暗いと思います.例えばインターネット社会で最大のテーマは暗号の問題です.今後,eコマースなどインターネットで資金が関わるビジネスには暗号が不可欠になります.米国の政府が採用するAES(Advanced Encryption Standard)[★1]という暗号システムが普及するようになると,世界中のインターネットの暗号が米国方式になるでしょう.そうすると,現在,世界の基軸通貨であるドルによる米国の通貨支配がなされているのと同じ状況がインターネット上でも起こる可能性があります.世界の基軸通貨として世界中に流通しているドルの地位に円が取って代わる事がほとんど不可能なように,グローバル・スタンダードが通用する分野では,既に遅れてしまった日本の逆転は,極めてむずかしいと思います.

武邑──NTTドコモが欧米に先駆けて開発したiモードや次世代携帯電話はどうですか?

月尾──iモードは確かにスタートダッシュはよかったけれども,米欧が組んで日本対策をやるという戦略的なことが渦巻いているから楽観的ではありません.iモードに対して米国方式のWAP[★2]による包囲網,ドコモの次世代携帯規格W-CDMA[★3]に対して,米国方式のcdma2000[★4]による包囲網などです.

今回の日米問題になったNTTの相互接続料金問題も,米国によるNTTの弱体化が狙いだと思います.ITの世界覇権を狙う米国にとって,先行してiモードを普及したり,光ファイバーネットワークを進めるNTTは不気味な存在です.相互接続料金を下げることで,NTTの体力を弱め,NTTの長期計画である光ファイバーネットワークの実現を遅らせようというのが米国の意図です.そもそも米国でゴア副大統領が提唱した情報スーパーハイウェイ構想も,日本全国の家庭を光ファイバーでつなぐというNTTのVI&P構想への対抗策でした.ところが,光ファイバーの製造の大半をすでに日本企業に抑えられているため,米国が光ファイバーネットワーク構築を推進すると日本にさらに抑えられるとわかり,光ファイバーからインターネットに方向転換したのです.しかしNTTによる日本全国の光ファイバーネットワークが実現すると,日本はIT分野で米国を凌駕する社会基盤を整備してしまうおそれがあるのです.そこに楔を打ったのが,今回の相互接続料金問題です.米国の地域通信会社に壊滅的打撃を与えるという理由で米国の国内でも採用されていない長期増分方式による相互接続料金算定方法を,日本にだけ適用せよ,という米国の主張の真意を見抜かなければいけません.そもそも相互接続料金の問題は,日本国内の問題で,完全な内政干渉なのです.

しかしITビジネスの核心はコンテントです.世界に通用するコンテントを創りだせれば,先行きは暗いどころか完全に明るいのです.仮に世界の携帯電話のスタンダードがWAPになり,cdma2000になったとしても,多くの人たちが使ってくれるコンテントを作りだせばいいのです.もちろんプラットフォームのデファクト・スタンダードを目指す努力もしなければいけませんが,本当の競争力の核心は,三次産業の高次な部分である「コンテント・ビジネス」だということを産業界が理解すれば大丈夫だと思います.


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