ICC Review


「ICC子供週間」
2000年3月22日−4月2日 ギャラリーA,D



子供たちの春休み期間に合わせてICC子供週間が開催された.この催しは,子供のしなやかな感性とコンピュータとの出会いをテーマに,やさしくて楽しいコンピュータとのつきあいかたを紹介する場となった.

コンピュータを中心としたメディアの発達はモノと人との関係を変えていく.さまざまな不思議なかたちをつくりだすことも可能である.例えば,ゲームのなかではボタンを一つ押すだけでたやすく人を殺すこともできる.もちろん残酷なことばかりではなく,ボタン一つでホームランを打つこともできる.この催しでは,できるだけ自然なインターフェイスを設計するよう作家とともに考えた.あえて言えば,ビリビリという音と振動で紙を破いていることが体感できるようなインターフェイスである.子供たちがいつも遊んでいる玩具,使っている道具,また夢のなかに出てくる遊具をメタファーとして,誰でも容易に作品に入っていけるようにした.

岩井俊雄とばばかよの作品《鉛筆とコンピュータが出会う小品集》では液晶タブレットをインターフェイスに使用している.鉛筆で絵を描くように作品と触れ合う.作品の一つ《空中のレコード》では空に浮かんだレコード(絵はすべてばばによるイラスト)に鉛筆をこすりつけるとサンプリングされた音が鳴り出す.子供たちはまるでDJになったかのように演奏をする.このほかにも《星でつくる音楽》《雨ふり》《48コのかけら》《ペラペラダンス》が出展された.いずれの作品も鉛筆で絵を描く行為が基本になっているが,雨を降らせたり,星を並べて演奏したり,雪の結晶を動かして演奏したりと,岩井ならではの映像と音を鉛筆で操る楽しい作品である.

藤幡正樹と古川聖,ヴォルフガング・ミュンヒ,木原民雄による《小さな魚との遊び》ではブロックを動かすというインターフェイスで参加する.藤幡はコンセプトとグラフィックを,古川はコンセプトと音楽を,ミュンヒはプログラムを,木原はブロックの位置情報認識プログラムをそれぞれ担当したコラボレーション作品である.参加者は実在する大小6個のブロックを動かし,コンピュータから投影された泳ぎまわる魚にぶつけ音を出す.音が重なり合い音楽となっていく,形が音色を表わし,配置が演奏を表わす,未来の記譜法の提案である.

木原が制作した作品《インタリウム》は空に向かって指さすと指先に絵が現われる,魔法使いになれる作品である.空に見立てた立体スクリーンの前に立ち,指をさすとさまざまな映像(制止画,動画)が現われる.複数のレイヤーを使用しているため,街並みやオブジェの映像が体験者とそれを後ろから見ている参加者を巻き込んで,不思議な空間をつくりだす.例えば,ミカンを中空に貼り付ける.参加者自身(会場内のブースで撮影した2秒間の動画)も空に浮かべることができる.またそれらを背景にいる人間が食べようとしたり,手の平にのせたりと,この作品からは数多くの物語が生まれた.

期間中には三度,参加型のワークショップも開催された.3月25日,4月1日に行なわれた大東文化大学の苅宿俊文によるワークショップは子供たちがコミュニケーション(=表現)を体感する場となった.参加者はグループに分かれ作品と触れ合う.その体験を思い出しながら,どのような体験であったか,どこがおもしろかったかなどを絵に描き,発表しあった.そして同じ体験をした他者の感じ方,考え方を聞き,また自分の体験を反芻することで,人に伝えるためには体験を見つめ直す必要があることに気づいていった.

3月26日の岩井とばばによるワークショップでは参加者がアニメーション制作を体験した.まずは,身体で3種類のポーズをつくり(撮影し),3コマのアニメーションを作成する.その後,イラストを描き(これも3種類のポーズ),コンピュータに取り込む.ワークショップの最後には子供たちが描いたダンサーがスクリーン上に22人並び,ラインダンスのように音楽に合わせて踊るという参加者全員によるコラボレーション作品へと発展していった.

11日間という非常に短い会期であったが,春休みということもあり,多くの子供たちが訪れた.特筆すべきは,一つ一つの作品に時間をかけじっくり体験した子供が多かったことで,出展作家の仕組んだ演出がうまく伝わったといってよいだろう.こうした作品を体験した彼らが今後,キーボードやマウス,ゲームのコントローラを使ったコンピュータとの定石化した関わり合いに疑問をもち,コンピュータがより人間に近づくような未来を考えていくきっかけになれば幸いである.

[伊東祥次]


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