ICC Review


池田亮司《マトリクス(無響室のための)》
2000年3月22日−5月21日 無響室



企画展「サウンド・アート――音というメディア」において好評を博した池田亮司の《マトリクス(無響室のための)》が再公開された.一度に体験可能な人数が1人と限定されていること,体験に一定の時間(約5分)が必要とされ,展覧会入場者に比して会期中の体験者が極端に少ないこと,そして無響室という特殊な環境に設定された空間を必要とした常設展示の三上晴子による作品のように,当館の常設設備をこうした作家たちの先鋭的な試みの実験場として機能させることなどが,その理由である. 無響室に入り着席すると室内は暗転し,完全な暗黒が訪れる.スピーカーから音が発される直前まで体験される沈黙.正弦波を基調にした音響による5分間の体験.そしてまるですべてが1点に凝縮するかのように終了する.あらかじめ遮断された視覚と聴覚によって感覚的にも知覚的にも宙吊りにされる状態になった鑑賞者にどのような作用をもたらしたか.そして,その体験の理解と解釈は鑑賞者に委ねられた.

[畠中実]


※本誌32号pp.177−179に掲載された伊東乾氏による「サウンド・アート」展評において,池田氏本人が自身の作品《マトリクス》に対し発言されているかのように引用されている部分がありますが,該当部分の記述は担当学芸員による解説文等からの引用であり,池田氏自身によるものではありません.池田,伊東の両氏をはじめ関係者や読者のみなさまに,誤解を招いてしまったことに対しお詫び申し上げます.


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