デジタル・フロンティア
多文化主義のなかの日本

グリーン――いまやインターネットの商業化には行きすぎた面があります.これは非常に憂慮すべきことです.合衆国の特許局はあらゆる種類のアルゴリズムに特許を出すようになっています.それで,いつも誰かにお金を支払う必要があるということになりました.アマゾン・コムが「ワンクリック・ショッピング」の特許を取ってしまったため,ある会社は,「ワンクリック・ショッピング」を提供してはいけないと命じられました.それでバーンズ・アンド・ノーブルはいまや「ツークリック・ショッピング」ということになってしまいました.こういうことをわたしはとてもおそろしく思っています.

キム・H・ヴェルトマン――現在インターネットが抱えている問題の一つは,インターネットが事実上,英語という一つの言語のみのものだということです.これはナンセンスです.わたしはそうは思いませんが,フランスでは「要するにインターネットというのはアメリカの陰謀だ!」と言う人たちが政府高官にも大勢います.

月尾――わたしは陰謀とは思いませんが,インターネットが世界的に普及したのは,アメリカの戦略であることは間違いありません.インターネットの商業利用が始まった1988年という年は,ソ連の崩壊が確実視されはじめた年です.当時の米国は,東西二極バランスの崩れた社会をどう維持していくかという観点から情報戦略を構築したのです.70年代から,日欧の主導でOSI(Open Systems Inter-connection=開放型システム相互接続)という通信の標準プロトコルがつくられていましたが,3年出遅れた米国が,元来は軍事目的に開発されたインターネットを一般に普及させることで,通信の標準を握り,日欧主導のOSIは衰退したのです.米国発のインターネットを世界標準にすることで,米国は技術の主導権を握りました.そして,そこで使用される言語,さらにはビジネスや文化の様式においても有利な地位を得つつあります.


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