ICC Report

mego

mego@ICC
――テクノミュージックの未来形

1999年1月14−17日
ギャラリーD



本誌26号「音楽/ノイズ」特集において紹介されたウィーンに拠点を置くテクノイズ・レーベル「メゴ」.サウンドはもちろんデザインなどを含め,徹底して独特のレーベル・カラーをもっている.サイン波などのパルス・トーンやデジタル・ノイズなど,通常はエラーとして認識されてしまう要素を大胆に導入して紡ぎ出されるそのサウンドの特異性は「テクノの終焉」(佐々木敦)とまで言わしめるものである.

ICCはその「メゴ」のアーティストたちを招聘,1月14,16,17日とコンサート,15日にはシンポジウムを行なった.来日したアーティストはピタ,ジェネラル・マジック,フェネス,ファーマーズ・マニュアル,ハズウェル,スコットの6ユニット計9人,加えてメンバー間の別ユニットであるレーバーグ&バウアー,ポップ,フェノバーグの3ユニットが出演した.ジム・オルークがメンバーの一人であるフェノバーグは,オルークが同時期にソロ・コンサートのために来日中であったための特別出演となった.そして日本からは池田亮司,メルツバウ,フィラメント,ズビグニエフ・カルコフスキーらがゲストとして出演,さながらヨーロッパと日本のテクノ/ノイズ・アーティストの競演による4日間となった.

1日目は池田亮司による演奏でスタートした.パルス・トーンによるミニマル・サウンドからサウンド・コラージュまでを駆使したもので,オシロスコープを使用して演奏に同期した波形を投影した映像が効果的だ.つづくファーマーズ・マニュアルはマティアス・グマッヘ,ゲルト・ブラントナー,オズワルド・ベルトルトによる3人組,全員20代前半でレーベル最年少のグループである.メゴのメンバーはすべて演奏にはパワーブックなどのノートパソコンしか使用しない.3人がノートパソコンに向かってその出た音に反応しながら逐次的に音を変化させていく彼らのパフォーマンスは,そのいかにもコンピュータ少年然としたルックスと相俟ってユーモラスですらあった.しかし,彼らの電子ノイズの単なる配列のようなサウンドはなんとも形容しがたいものである.このイヴェント中,メゴのアーティスト演奏時の映像はスコットが担当した.スコットはメゴのCDジャケット,ウェブ・デザインなどのアートワーク全般を担当するティナ・フランクとファーマーズ・マニュアルのマティアス・グマッヘによるユニットで,メゴによる演奏でのヴィジュアル面の不足を補うものだという.レーバーグ&バウアーはピタことピーター・レーバーグとジェネラル・マジックのラモン・バウアーによるユニット.彼らの音楽(?)を言葉で表現することはいささか無理な感じはするが,かすかな「テクノ」の記憶をもった,まるで壊れたCDのようなサウンドを聞かせた.ギタリストとしての経歴をもつフェネスことクリスチャン・フェネスはサンプリングされたギターの音を使用していた.彼らは同様のスタイルをもってはいるが,それぞれのユニットが異なるヴェクトルに向かっていることがわかる.

2日目のシンポジウムではピタ,ラモン・バウアー,マティアス・グマッヘ,ラッセル・ハズウェルに日本からは大友良英をパネリストに迎え佐々木敦の司会により進行した.コンピュータの可能性に興味をもっているというマティアス・グマッヘの発言にみられたように,彼らは異なる音楽スタイル(テクノ,ノイズ,電子音楽など)を背景にして,使用するテクノロジーを共通のコードとして集まったという印象である.また使用する機材,ソフト的なことに関する言及を避けることが印象的であった.ピタによれば使用しているソフトはなにも特別なものではなく,誰もが買えるようなものであり,結果の善し悪しはその使用法によるものでしかないということだ.そしてコンピュータの簡易化によってもたらされる質の低下などの弊害について語られた.

3日目は秋田昌美と東玲子によるメルツバウにハズウェルことラッセル・ハズウェルが加わったユニットによる演奏から始まった.3人によって放出される大音量のノイズが会場を満たした.つづいてメゴからのCDリリースが予定されているズビグニエフ・カルコフスキーのソロ,そして途切れることなくピタとのユニットであるポップへと推移.ピタは数多のユニットで活動しているが,それぞれ異なるサウンドを試行しているようだ.スコットの演奏はステージの袖から行なわれ映像を中心としたものとなっていた.今年リリースされる予定だという彼らの初めての作品はDVDによるものになるという.つづいてメゴの創設者ラモン・バウアーとアンディ・ピーパーによるジェネラル・マジック.もともとはテクノ・レーベルとしてスタートしたというメゴのなかでも「テクノ」という形式に一番近いのは彼らであろう.しかし,そのサウンドはどこか痙攣的で脱臼したリズムをもつ演奏であった.

4日目の大友良英とSachiko Mによるフィラメントはサイン波によるインプロヴィゼーションによって緊張感溢れる演奏を聞かせた.そして耳慣れたサンプリング・フレーズが現われたフェネス,ジム・オルーク,ピーター・レーバーグによるフェノバーグでは3人による即興的なサウンド・コラージュが聞かれた.ハズウェルによるノイジーな演奏は,これからのメゴの方向性は,という質問に「more chaotic」と答えた彼らしいものであった.そしてイヴェントの最後を務めたのはレーベルの中心人物であるピタ.ミニマルなパルスの反復からノイジーな(本当の)メロディ/フレーズが出現した瞬間は感動的ですらあった.シンポジウムの発言にみられたように,通常の機材を使用してどれだけ特異で,しかも感情に訴える音楽を作りうるのかは個人の資質によるものだ.その意味で彼らはテクノロジーに対する批評的スタンスを確実に維持している稀有なアーティスト集団であることは疑いない事実のようだ.

[畠中実]

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