ICC Report

Nuzzle

藤幡正樹ネットワーク・インスタレーション
《ナズル・アファー》

1998年11月25日−12月6日
ICC5階ロビー
Photo: 藤幡正樹



藤幡正樹氏によるネットワーク・インスタレーション《ナズル・アファー》の展示およびイヴェントが行なわれた.現在,藤幡氏はドイツのカールスルーエ市にあるZKM(カールスルーエ・アート・アンド・メディア・センター)の映像メディア研究所にアーティスト・イン・レジデンスとして滞在中で,本作品もその滞在期間中に制作され日本での初披露となった.

本作品は,もともとZKM映像メディア研究所で行なわれた「サロ・ゲート_1」展(1998年11月1日−12月6日)への出品のために制作されたものであるが,ネットワークを用いた作品であるという特性をふまえ,その制作・企画段階で,ZKMでの展示と同時期に可能な遠隔地での展示が計画された.具体的には,ICCのほかに,オランダのロッテルダム市で行なわれたDEAF98,慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで行なわれたオープン・リサーチ・フォーラム会場や,オーストリアのリンツ市にあるアルス・エレクトロニカ・センターなどとの連携により,各地で《ナズル・アファー》の展示およびネット・イヴェントの試みがもたれた.

タイトルにある“Nuzzle”とは,「鼻でそっと相手に触れたり,互いに寄り添う」という意であるが,本作品は,遠く離れた場所で互いがそのような感覚を得るための身体,および空間のデザインが主眼となっている.実際には複数の参加者が別々の地点から一つの共有された仮想空間にアクセスするという,Shared Virtual Reality Environmentのシステムとして構築されている.

トラックボールとマイクが備わった操作卓とスクリーンが各2組ずつで構成され(写真1),ユーザーはこのトラックボールを操作することで,アバターと呼ばれる自分の仮想身体を前進,後退,左右へとコントロールすることができる(写真2).アバターには自分の顔のリアルタイムの映像がカメラでキャプチャーされマッピングされており,遠隔地の相手を確認することが可能である.また,アバター同士が出会い,近づけば,操作卓に設置されたマイクを通じて会話することも可能だ.

これらの基本機能に加え,《ナズル・アファー》の大きな特徴は,従来のShared Virtual Reality Environmentでは見られない仮想空間デザインにある.他のアバターの軌跡をたどるための「トレース機能」,アバター同士がぶつかって生成されるふたりだけの空間「親愛の球体」そして,この親愛の球体で出会ったという記録が仮想空間上のオブジェとして残される「記憶の板」などがそれらである.

時差の関係上,通常はICC内の2端末間の接続のみであったが,ICCが午後9時まで開館する金曜日を利用し,会期中2回,ネット・イヴェントが行なわれた.

イヴェント第1回目の11月27日は,アーティスト・トークも行なわれ,藤幡氏自身により,作品制作における意図や背景などが,海外での展示のヴィデオ映像などとともに詳しく紹介された.本作品の方向性を「未来の電話の創造」とメタフォリカルに語りつつも,その具体的な方向性が作品とともに示された.海外との接続に関しては,ヨーロッパ側のルーターや回線の不具合等にさいなまれながらも,断続的に行なわれ,今後のICCでのこのような実験的な試みへのサポートが,ますます重要な意義をもつであろうことが予感された.

[若林弥生]

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