InterCommunication No.16 1996

InterCity KWANGJU


「民主の地」での国際美術展――光州ビエンナーレ 4/5

現されたパイク・アベ・シンセサイザーやスティーヴン・ベックのデジタル・ビデオ・シンセサイザーが往時のままの画像を生成している.パイク自身や久保田成子,山口勝弘,飯村隆彦,山本圭吾,スタイナ・ヴァズルカらの新旧のビデオ・アート,ウェン・イン・ツァイのサイバネティック・アート,ポール・アールズのレーザー・アート,そしてジェフリー・ショーの《Revolution》を見ることができた.メディア・アートの歴史を見る上で得難いチャンスである.
れらと並んで,ポール・ギャリン,リュック・クルシェスヌ,グレアム・ウェンブレン,ジャン = ルイ・ボワシエらのインタラクティヴな作品が展示されている.《Very Nervous System》で知られるデイヴィッド・ロクビーの新作は,ビデオカメラからの画像の変化を解析する彼のシステムを応用し,美術館のホールに往来する人々をいわばその存在の時間によって面から線へ変え,あるいは消滅させてしまうもので,ロクビーがこのところ考えてきた新たな方向性が示された興味深いものだった.ギャリンとロクビーによる別の作品《Border Patrol》は階上の「証人としての芸術」展の入り口に設置され,芸術による政治批判によって構成されたこの会場の導入として劇的な効果を上げていた.
リスタ・ソムラーとロラン・ミニョノーの《Interactive Plant Growing》は,おそらくビエンナーレ全体で最も注目を集めた作品の一つで,パイクは「こういうアーティストが私の未来をおびやかす」とジョークを飛ばしていた.というパイク自身,レーザーを使った新作を展示して意気軒高なところを見せている.
「ビデオ・アートの歴史的展開を見せるのだったら,本当はビル・ヴィオラとゲイリー・ヒルを抜かすわけにはいかないが,この二人に声をかけられる予算なんかない.だから,ビデオ・インスタレーションはアジアの作家だけ,という方針を立てた.そうするとうちの奥さん(久保田成子)は入るのでちょうどいいしね」とパイクは冗談とも本気ともつかない口調で言っていたが,十分な予算も国際的なメディア・アート展のノウハウもない土地でこれだけの規模の展示ができたこと自体,奇跡に近かったようだし,展示したい作家がすべて網羅できたはずはない.


[前のページに戻る] [次のページに進む]
[最初のページに戻る]