Camera/Lighting: Rex BARKER
Writer/Director/Editor: Gary HILL
With: Ramone Cyrus McLANE, Lou HETLER, George CATALANO,
Joy COHEN, Diane WAGNER, PhyllisBANNISTER, Ed BOYD, Maria LODAHL

ヒルは1970年代後期から意味と意識のあいだの対話を押し進めてきたが，《Incidence of Catastrophe》は読みにおける共感覚とテクストによる夢の作用を描出することによって，その限界を踏みだすものである．モーリス・ブランショの小説『謎の男トマ（Thomas the Obscure）』と，自分の子供が言葉を獲得していく過程の観察にインスパイアされた，このヒルの発見的方法による力作は，言語とその表象の配された迷宮の中へのゆるやかな降下を詳述する，一連の　情的なシナリオとモチーフを通して，見る者に対して，テクストになる方法の基礎を教えているのである．読み書きの能力は，心の病としてとらえられ，最後のイメージである．言葉の壁の前の溺死する男は，西洋社会の意味の文化における肉体の悲惨さを表現している．ヒルのブランショについての「著作」は，それぞれの層の展開が的確に配置され，非常に啓示的なものである．文学とヴィデオにおける芸術的実践と批評的実践のあいだの生き生きとした新しい関係についての希望を与えてくれる．

《Incidence of Catastrophe》1987–88