日時： 2004年6月13日（日）15時
会場： ICC 5F ロビー

InterCommunication – ICC Report:
「ネクスト：メディア・アートの新世代」展は、複数のセレクターによって推薦された国内の若手新進作家から出品作家を選出するという方法で構成され、それは結果として20歳代前半から30歳代までの作家12人（組）を紹介する展覧会となった。

セレクターは、阿部一直（山口情報芸術センター）、四方幸子（森美術館）、清水建人（せんだいメディアテーク）、森山朋絵（東京都写真美術館）、そして筆者の5人。いずれも、国内のメディア・アートを扱う施設、およびメディア・アートを専門とする学芸員であり、美術館や公共文化施設に従事している。メディア・アートの展覧会を企画する側として、現場からのそれぞれ異なるであろう視点を明らかにしてみたいという思いと、山口、仙台と近年国内に開設された情報メディア系文化施設との今後の連携を考えるうえで、こうした施設同士の交流、共同作業を行なうことは有意義であろうという思いとが、本展の企画の出発点でもある。

作家の選出にあたり、この展覧会タイトルに謳われている「メディア・アート」という言葉をめぐる定義および境界画定などにセレクター同士の共通見解のようなものが指定されたわけではなく、ゆえにむしろ共通するものというよりは、それぞれが違うということが展覧会に表出されることになった。もちろん、そのこと自体がセレクターの中で問題にならなかったわけではない。この展覧会では、全体を構成するテーマを設定するというようなことをしておらず、言ってみれば見本市的な構成となっており、出品作家同士の関連性の中から一貫するテーマのようなものを見つけることは難しい。それは、各セレクターが若手作家の中で気になった作家、作品を推薦したというレヴェルにとどまるものかもしれない。もちろん、それぞれある選択基準を設定したうえで選出が行なわれていることは、展覧会カタログの各セレクターのテキストにも書かれているとおりであり、その作家の選定自体がセレクターの「メディア・アート」の捉え方やスタンスとでも言うべきものを表わすことになったと言えるかもしれない。

また、会期後半より数回にわたり（5月16日、30日、6月6日、13日）ゲストも交えながら週末行なわれたトーク、シンポジウムにおいては、作家自身にジャンルへの固執が少なく、より自然に表現内容を実現するための表現ツールとして、コンピュータおよびその周辺技術が身近なものとしてあった世代ということを強く意識させられた。ただし、安藤孝浩は絵画をその出自とした作家であり、「描くということ」＝「対象を見つめること」であるということから出発し、対象を目に伝えるメディアともいえる光（それは言うまでもなく絵画における根本的な要素だ）を光子として検出する技術を用いて、それ自体は目に見えるかたちをもたない光をより観念的なレヴェルで捉えようとする非常にコンセプチュアルな側面をもっている。ゆえに今回の展覧会の中では異質なものになっていたかもしれないし、本人にも自身の作品がメディア・アートであるという自覚はないであろう。さらにそうしたいくつかの出品作品を挙げるなら、春日聡は「気配」というこれもまたかたちをもたないものを対応関係の不明瞭なインタラクティヴィティと絡めることで、アトモスフェリックなインスタレーションとして展開した。橋本典久による360度の視野を平面に展開した《ゼログラフ》は、写真表現の中で、テクノロジカルな視覚の再定義を促す。チープな100円ショップアイテムが演じる、るさんちまんのオートマティック・ライヴ・エディティングによるヴィデオは、そのおかしくもあるオブジェの形象からナラティヴを創出する。

さらに現在では、現代アートの展覧会においてもいわゆるメディア・アート的な表現を見つけることはたやすい状況がある。例えば映像を使用した作品の増加はその一つだろうし、音響を使用した作家がクローズアップされるということも同様だろう。もう一つはメディア・アートというジャンルの多様化と一般化に伴い、プロダクト・デザインなどの分野に著しい、手法としてのメディア・アート的表現自体も一般化しつつある。それはメディア・アート自体が技術と伴走するものであり、そうした技術がより一般化したかたちで普及した現在ではさまざまな表現ジャンルに遍在するのは当然のことなのかもしれない。例えば鈴木太朗の《Water Canvas 2004》などは、作家の表現内容というよりは観客に利用法やそこにどのような絵を描くかということを委ねてしまうという点で、むしろコンピュータ技術を応用したデザイン・ツールともいえるし、ゆえにより公共的な展開の可能性を秘めたものといえる。

ところで「メディア・アート」と「新世代」という言葉がもつ語感は、常に新しい技術の発展とその批評性とともにあったメディア・アートの進歩史観をうかがわせるものでもあるかもしれない。しかしここでいう「メディア・アートの新世代」とは、メディア・アートにおける新しい表現をもった作家ということ以外に、もう1つにはメディア・アートと呼ばれているものが変化／解体していく過程、メディア・アートというジャンル自体の拡散とそれに伴う純化をも示唆するものになるかもしれないということだろう。

今後この展覧会がシリーズ化されるとすれば、以降セレクターのセレクトによっても展覧会の成り立ちは変わっていくだろう。ともあれ、セレクターが選出したこれらの作家によってメディア・アートの現在と、そしてそこから次が予感されたものになったとすれば幸いである。［畠中実］

出典：『季刊 InterCommunication』No.50（NTT出版，2004）

ネクスト：メディア・アートの新世代シンポジウム「メディア・アートの新世代」

ネクスト：メディア・アートの新世代
シンポジウム「メディア・アートの新世代」