「設置音楽2|IS YOUR TIME」展(2017)で,インスタレーションとして展示された,東日本大震災の津波で被災した宮城県名取市の高校のピアノを,スキャンするように対象物を写し取る方法で撮影した作品です.展覧会会期中のICCの展示室で撮影されました.
坂本龍一は,この東日本大震災の津波で被災した宮城県農業高等学校のピアノに出会い,坂本にとってもなじみの深い,ピアノという楽器が自然の力によって,「モノ」に還されたのだと感じました.高谷史郎とともに作られた《IS YOUR TIME》は,このピアノが奏でる物音の中に音楽を聴き取ることから音楽の再生を試みながら,物理的な音を感知することだけではない,知覚不可能な世界を感覚するための作品です.
人間によって作られた,ピアノという近代を象徴する楽器が,津波という自然の力によって,楽器としての機能を失ったことは,当初,坂本に「音楽の死」を思わせるほどの印象を与えました.海水に漬かり,いくつかの鍵盤からは音が鳴らなくなり,調律することもむずかしい,修復不能となったピアノにたいして,やがて坂本はその印象を変えてくことになりました.そして,このピアノを「自然によって調律されたピアノ」としてとらえ直し,世界各地の地震データによって演奏することで,新たに地球の鳴動を感知させるためのメディアとして「転生」させることを試みたのです.
もとはモノだったものが,人によって変形され,時間とともに,あるいは巨大な自然の力によってまたモノに還っていく.
都市もそうだ,都市の素材も鉄,ガラス,コンクリートなど,もとはみな自然のモノ.それらを人は惑星各地から集積し,あたかも彫刻のように形を与えていく.しかしそれも時間の経過とともに,モノに還っていく.
自分が住んでいるマンハッタンを見ていて,以前からそう思えて仕方なかった.これは単なる個人の妄想ではないんだと最近は思うようになった.