ブラウン管モニターに極彩色のパターンが映し出されています.このような鮮やかな色彩は,通常の映像の色信号の出力を超えてしまっているので,放送などのヴィデオ映像の規格では使用することができません.この映像は,ヴィデオの映像信号を変調させる,ヴィデオ・シンセサイザーによって作られ,電子メディアやテクノロジーを介した新しい抽象表現の可能性を探求し,ヴィデオという電気信号によって再現される電子映像が,電気的に加工可能な素材であるということを示すものでもありました.
ナムジュン・パイクは,ヴィデオという電子の映像を芸術における新しい表現領域とした,ヴィデオ・アートの創始者として知られるアーティストです.パイクは,日本でエンジニアの阿部修也と知り合い,パイク゠アベ・ヴィデオ・シンセサイザーを共同で制作し,この装置を用いた映像によるヴィデオ・アート作品を数多く制作しました.
こうしたアーティストのアイデアとエンジニアの技術的なサポートによる共同制作,および表現のための技術を自ら制作することは,メディア・アートの世界ではめずらしくありませんが,この作品は,その先がけとしての歴史的なコラボレーションだと言えるでしょう.
「オープン・スペース 2014」展では,阿部によって再制作された1972年版レプリカを展示します.
展示協力:瀧健太郎