終わりなき道の標に

つくり手と社会

会津――それはすごいことなんだけど,どこへ行こうとしているのですか? 「タンジブル・ビット」の世界を突き抜けた向こう側をどう見ているのかな,そこが知りたいですね.

石井――「タンジブル・ビット」は,情報と人間とのインタフェイスを考えるための,新しいコンセプチュアルなフレームワークです.したがって,その具現の仕方はいろいろあり,多様なアプリケーションを産み出すと同時に,その実現技術にも多様性があるでしょう.要するに,一番大切なものは,新しいインタフェイス・デザインの「視点」です。その視点を,いろいろな作品を通して伝えようとしている.その視点自体,進化しつづけるものなので,なかなか完成という域には到達しない.「タンジブル」をつきつめてゆくと,結局存在とは何なのか,実在とは何なのかということを問うことになります.だから僕の仕事というのは,本質的に新しい問いを発しつづけるための研究であるのです.

会津――でも,石井さんは本質的にモノをつくる人なんだから,コンセプトを形にするということにも同じくらいエネルギーがかかるわけですよね.

石井――もちろん,そうです.本質的な問いに対して完璧な答えが出せるとは思わない.問いつづける作業の一環としてモノをつくって,それが何なのかを理解しながら,さらにその問いを研ぎ澄ましていくということでしょう.

石井――その点ですが,別の考えがあって,僕にとって大切なのはやはり最終的に何らかのかたちで世の中に返すということなんです.研究という意味では知的,概念的,哲学的,美学的な還元の仕方があるかもしれない.しかしわれわれの研究を支援してくれるスポンサーがいて,その人たちのサポートでこの研究活動を続けることができるわけで,現実的なご利益のあるものを彼らに返すことも僕らの使命だと思っています.大学だからといって哲学とか理論だけをやっていればいいという気持ちはさらさらなくて,根はエンジニアだからやはり問題は解決したい.それによって自分たちの研究成果から経済的価値を生み出すことによって,人々がお金を払ってくれる製品やサーヴィスに結びつけたい.スポンサーのビジネスにも貢献したい.

僕らがやっているのは価値の創造であって,価値は当然,経済的対価を伴ってこないとおかしいと思います.その過程で,なぜこういう考え方がでてきたんだろうという問いが生まれ,「タンジブル・ビット」という考え方をより多くの人が知ってくれたら,とてもうれしいです.


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