「20世紀音楽」の旅行者

──喧嘩するだけではなくて,相互に影響を与え合ってもいるわけですね.

言葉っていうのは不思議なものだと思います.ちょっと馬鹿げた発言ですけど(笑).とにかくあまり音楽についての文章を読むのは好きじゃないのです.音楽に関する本も読まないし,大抵つまらないものばかりです.私が初めて行なった大きなコンサートは,フィル・スペクターと一緒にやっていたロネッツと,ローリング・ストーンズのコンサートなんです.当時14歳くらいだったんですが,ストーンズが登場した瞬間,隣に座っていた女の子が叫び出して,まるで発狂したみたいだった.私も楽しんでいたんですが,でも同時に頭のなかでは色々と考え込んでしまってもいた(笑).その後,ジミ・ヘンドリックスのコンサートを見たり,人気があったミュージシャンのライヴはほとんど見に行きましたが,音楽に深く入り込むとともに,常に思考してもいたんです.20代前半の頃には「自分は考えるのをストップして純粋に音を聴けないのかも」って悩んだりもした(笑).ある意味で,常に音楽について考えてしまうのは,大変な重荷です.さっき快楽主義について触れましたが,快楽主義者でいられたらどんなに素晴らしいでしょう.ひたすらドラッグをやって,踊って,何も考えない(笑).でも同時に,物事を分析して,思考して,自分の身の周りで起こっていることを理解しようとするのは大切なことです.現在はきわめて混乱した時代です.だから,分析して,深く考え,新しいアイデンティティを見つけようとすることは重要だと思うのです.でも,ときには,考えるのを止めて,酔っぱらうことも必要です(笑).レストランで食事をしていて,突然,スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンがかかって,驚いたりする.そういう体験は素晴らしいと思います.あらかじめ計画されていない,出合いがしらの驚き,新しい何かを聴いた時の興奮を大切にしたいのです.

──では最後に今後,予定されているプロジェクトや作品について教えて下さい.

ベルギーで行なわれるCD-ROMインスタレーション《Mondo Fernetic》のサウンドトラックをつくり終えたばかりです.これは文化のグローバリゼーションについての作品で,ヴィジュアルの多くは,中国,東欧,ベルリン,イギリスなど,世界中の高層ビルの写真なんです.インタラクティヴ・メディアの分野で音楽をつくってみることは楽しい経験でした.ノン・リニア・ミュージックだったのが面白かったですね.次のプロジェクトがジェフ・ヌーンとのアルバムです.そのほか,パフォーマンス,朗読会,レクチャーなどがあります.そして,ヘイワード・ギャラリーでの「Sonic Boom」ですね.

通訳:バルーチャ・ハシム(HEADZ)

[2000年1月29日,ICC]


デヴィッド・トゥープ――1949年イギリス,エンフィールド生まれ.1970年代の初期から即興音楽を演奏.ブライアン・イーノのオブスキュア・レーベルから《新しい楽器と再発見された楽器》を発表(マックス・イーストレイとのカップリング).1998年のリスボン博覧会でアクア・マトリクス屋外ショーのためのサウンドトラックを作曲.2000年1月,ICCの「サウンド・アート――音というメディア」展に参加のため来日.

ささき・あつし――音楽/音響批評.HEADZ所属.雑誌『FADER』編集発行人.memeレーベル主宰.


前のページへleft right目次ページへ