SRLカタルシス

NF ――質問を変えて,あなたのショーは広場とか公共空間で行なわれることが多いのですが,公共空間について何かコメントをください.

MP ――もちろん,ああいうショーは砂漠とか何もないところでやるほうが簡単だよ.《バーニング・マン》[★6 ]フェスティヴァルも,昔はサンフランシスコのビーチでやってたわけだが,あんまり大騒ぎになるんで警察や役所に移動を命じられた.あれはもうビーチじゃ絶対にできない.それで砂漠に移ってしまったんだ.SRL のショーがうまくいくには,コンテクストとの関係が重要なんだ.一つにはマシンを使って時間ベースのパフォーマンスをやる場合,非常に大きな問題と取り組まなくてはならない,ということがある.つまり,使うマシンたちがどんなに強烈なキャラクターないし個性をもっていようが,人間の役者を使って映画や演劇をする場合と比べ,はるかに大きな限界があるんだ.もちろんやり方はいろいろあるさ.5 分で終えてしまうこともできるだろう.しかし,観客がのめり込んで満足感を得るには30 分から45分は必要だ.マシンを通して実際にパフォーマンスと呼べるものを見たと感じてもらえるようにするには,実際たくさんの工夫を仕掛けなくちゃならない.

そうしたたくさんの事柄が僕たちのショーの基本になっている.一つの方法は,まったく相応しからぬ場所でやることだ.例えば今回のような,東京のど真ん中とかね.あんなマシンが出てきて爆裂するなんてことは,およそありえない場所だ.事実,大都会で手作りの大砲を発砲したり(空砲),大騒音を出したわけだからね.僕らはとてつもない騒音を出すし,爆発物や火を使う.あらゆるものを動員して,単なる屋外彫刻じゃない何かをつくりだそうというのが僕らの狙いなんだ.

だが,僕らが都市の屋外空間を選ぶことが多い現実的な理由もある.そもそも,使用されていない大規模な屋内空間を都会のなかで見つけるのは容易じゃない.僕ら自身はいつも屋内でもやりたいと思っているんだけどね.それに特にアメリカでは,たとえ僕らのショーに場所を貸そうという個人なり組織があったとしても,保険に入ってもらう必要があるしね.

もう一つ,アートの世界では観客と制作のプロセスが完全に切り離されているのが普通だが,僕らはそういった考え方も解体したいと思っている.たいていの人はアートを限定された場所のなかで捉えているし,サーカスみたいな伝統的なパフォーマンスとは別物だと考えているよね.その「場所」を僕たちはどんどん拡散させたいんだ.SRL のショーは,たまたま傍らを通りかかった人も見たり聞いたりして体験でき,制作のプロセスすら見ることができるものなんだ.そして,実際にはそういうパフォーマンスは滅多にない.

今回のショーの最中にも,フェンスの周りにたくさん人が立っていたが,「一体何が起こってるんだ?」と思いながら眺めていた通行人もたくさんいただろう.そしてやがて,「ああ,なるほど,彼らはインターネットでマシンを動かしているのか,NTT 大手町ビルと繋いでいるのか」と,納得がいったかもしれない.あるいは隣りの人とお互い顔を見合わせながら,「世の中にはまだ自分が知らないこともあるんだな」と思っていた人もいるかもしれない.こうして驚きの体験をするのはいいことだと思う.過激で過剰な出来事を,悲劇じゃない何かとして見られたら,それは素敵なことだと思うんだ.僕らがショーをやっているもう一つの大きな理由はそれだ.ショーによって開かれる何かがあるんだよ.


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