ICC Report

Net_condition

NET_CONDITION

1999年9月25日−10月6日
ICC 5階ロビー



「NET_CONDITION」は,オーストリア・グラーツ「シュタイアーマルクの秋」の企画のもと,ドイツ・カールスルーエのZKM,スペイン・バルセロナのMECAD,東京のICCが参加した4か国連動イヴェントである.これは長年,メディア・アートの運動を主導し,現ZKM館長でもあるペーター・ヴァイベルが全体構成を行なった試みであり,それぞれの独立した展覧会をインターネットを通じて仮想空間でアクセスすることにより,物理的距離を超えたイメージの共振を体験することが可能となった.ICCでは,プログラム委員,伊藤俊治の監修により以下の作品が展示された.

小谷元彦《engulf》は垂直に構成された浜辺に波が寄せては消えていく様子を表現した作品である.インタラクティヴな作品でありながら,劇的な反応は決して起こることなく曖昧に状況が変化していく.それはある面ではイメージの膨らみのなかから生まれてくる瞑想の世界でもある.

港千尋《The Book of Metamorphose〜変身の書〜》では,鑑賞者は中国の古典『易経』をベースにしたイメージ選択の繰り返しにより,最終結果を得る.その軌跡は卜占の亀裂のように現われ,それを眺め辿ることによって無意識に得た易経のプロセスを感じていくというものである.

渡辺誠《ファイバーウエイブIII》はパブリック・アートの《ファイバーウエイブ》,インドア版の《ファイバーウエイブII》(ICC「デジタル・バウハウス」展で展示)のヴァーチュアル版である.ネット上に自ら設定した風や雨,光の環境条件のなかでゆらめくヴァーチュアルなファイバーの梢を見ることができる.それはときには,インドアのリアルな梢の揺らぎをも想起させる.

藤幡正樹《ナズル・アファー》は前年にZKMで制作され,ICCを含む日欧5か所で公開された同作品のインターネット・ヴァージョンである.ネット上に展開されることによって場所の制約から解放され,インターネットに接続した端末があればどこからでもサイバー上の世界にアクセスし,新しいコミュニケーションを体験できるようになった.

全体として見れば,イメージの共振をさらに拡大していくには数多くの課題が残っている.インターネットは空間を超えた体験を可能にしていたけれども,オンタイムで共同作業を行なうには時差の壁が厳然と存在する.さらには,言語や文化といったさまざまな障壁がある.今回の試みはその克服に向けた小さな,しかし確実な一歩であったのかもしれない.

(家宇治嘉久)

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