ロボットの生態系

共進化に向けて/競合より難しい協調

浅田──最近「遺伝的プログラミング(Genetic Programming)」[★15]という研究をしています.そこでは,2体のエージェントがどれだけ協調行動できるかという研究を進めていますが,しかし,なかなか協調しないんですね.つまり意思決定機関が一つであれば,最適化や効率という概念が使えるんですが,意思決定機関が複数あると,そうした概念は吹き飛んでしまう.いかにだまし合いながら協調させるかというのが難しいのです.ロボットが2体だけで,第3者たる敵がいないから協調しません.
つまり2体だけだと協調する必要がありませんから.もちろん協調したほうが効率がいいことはわかっているんですが,それだと2体の仕事の差というか,タスクの難易度がそろっていないとダメだとか,いろいろ工夫しないと協調してくれない.例えば,パス&シュートの場合,パスするロボットのタスクはシュートだけするロボットより複雑です.なぜなら,相手に正確にパスし,なおかつシュートするロボットがちゃんとシュートしてくれないと自分のパスが評価されない.そこで自分でシュートしてしまう.そのほうがたやすいですよね(笑).敵を置くと協調せざるをえなくなるんですが,それでもなかなかうまく協調してくれない.

佐倉──それは面白いですね.

浅田──その話をどこかの研究会でしたら,本当に子供たちのサッカーのチームでそれをやってみたというんです(笑).ゴールキーパーがいて,残り二人がパスとシュートするんですが,キーパーが圧倒的に強いというんです.つまり邪魔することはとても簡単で,協調するのはとても難しいんですね.するとキーパーばかりが勝ってしまい,攻める側はやる気をなくして全然進化しないんですね.それでキーパーにいろいろな制約をかけると,三人が同時に共進化するんです.

佐倉──イギリスの心理学者がやった,ブタを使った古典的な実験があるんですが,順位の強いブタと弱いブタがいて,ボタンを押すとそこから離れた場所にエサが出るような装置を使わせます.最初の予想では,強いブタは餌の出口にデンと陣取って,弱いブタがせっせとボタンを押すだろうと考えられていたんですが,実際には協調関係に似たような状態になったんです.
ボタンを押すのは強いブタで,弱いほうが餌の出口に座ったまま,動かずして餌を食べられる.強いほうはボタンを押すやいなや出口にかけつけて,弱いブタをはじき飛ばして,餌を少しは手に入れることができるんです.

ではなぜこうなるかというと,強いブタが餌の出口で陣取っちゃうと弱いほうはぜんぜん餌をとることができないので,ボタンを押さなくなっちゃうんですね.そうすると強いブタも餌にありつけない.しょうがないから,自分でボタンを押す.弱いほうは労せずして餌を獲得できますが,かけつけた強いほうもおこぼれにあずかれるわけです.だからこの状態が一番いいんですね,双方にとって.
もちろんこれは,餌の量とか,ボタンから餌の出口までの距離とかによって,変わってきますから,ある条件下では協調するということですね.個体の力関係の差とタスクの難易度の差のバランスがうまくとれたポイントで,ブタの協調関係も生じるんです.

浅田──まさしくそうした問題があって,関係の複雑さと初期位置が同期しないとうまく共進化しないですね.

佐倉──そうですね.人間の場合,社会的な制約がそういった外部条件として機能することがあるんじゃないでしょうか.人間はかなり協調するようにできている動物だと思いますが,それは,外部集団との対立関係の裏返しとして存在しているのではないかと思うんです.例えば,水利をめぐってとなりのグループと対立するから自分たちは一致してそれを守るとか.つまり外圧ですね.敵となる第三者がいると協調関係が促進するという構造があると思います.

浅田──面白いですね.競合はできるんですが,協調は難しくて,すごく苦労しています.ゲーム的にそういうシチュエーションがなかなか出てこないんです.最近ではようやく一番下のレヴェル,つまりシュートさせるなどの学習はできるんですが,そこから上のレヴェルにははなかなか到達しない.
そこで,人間の場合でも選手をコーチが教えるように,最近は,ボトムアップの手法で,コーチと共進化[★16]させる実験をやっています.コーチが指示を出して一度でわからなくても何度か繰り返すうちに,「こんなことを言っていたのか」とわかる.またコーチの側からも,何度言ってもわからない選手に,何度か繰り返すうちに,「こいつにはこう言えばいいのか」ということをお互いにやっていく.そういう共進化実験です.つまり同じ視点に立つロボット同士とは異なり,違う視点で見ているコーチがロボット・プレイヤーとインタラクションする共進化実験をやっているのです.

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