ICC Report

Woody VASULKA

「ウッディ・ヴァスルカ/ワークショップ」

1998年7月31日・8月7日
ギャラリーD



ウッディ・ヴァスルカ「ザ・ブラザーフッド」展に関連して開催された2回のワークショップは,ともにほぼ同じ内容のものであった.基本的には同展の作品のコンセプトや,シリーズ的な展開の経緯を語るものであったが,話の中心は作品の具体的な面への言及より,やはりそのメイン・コンセプトである「ブラザーフッド」という概念についてが主であった.

彼が語る「ブラザーフッド」という概念は,われわれ日本人にはきわめて理解しがたいものである.一言で言えばいわゆる男性主義と訳すしかないのであろうが,男性主義という,どことなく社会的,政治的なイメージを感じさせる抽象的な概念というより,彼の言に従えばもっと無意識的なオブセッション,男性の飽くことなき欲望の総称に近い.それはもちろん性的な欲望に強く裏打ちされたものであり,それが特に今世紀のテクノロジーの発展の原動力であったと彼は強調した.それが現象としての近代戦争の一因であるという.

ただし,彼は本展において,その作品の主要部分を軍事廃棄物から流用しながらも,作品を具体的な兵器,あるいは戦争機械というイメージに単純には結びつけたくはなかったと述べた.なぜならば,彼は「ブラザーフッド」は現代の不可避的な一つのイデオロギーであり,それ自身が社会的,歴史的な文脈の上で何らかの価値判断を受けるべきではない,とのスタンスに立つからである.彼にとってそれはある意味で自分の制作の原動力でもあり,純粋な機械との「遊び」の母体ともなるエネルギーでもあるとするからである.

よって,彼は繰り返し自分の作品に具体的な意味を与えることを拒否し,まさに無目的な,無内容な戯れとも見える,自分の作品とのスタンスの重要性を強調した. 最後に,彼は「ザ・ブラザーフッド」シリーズが以上のような理由から,永遠に完結しないシリーズであるとし,自分の今後のライフワークとして,新たな機械=テクノロジーとの出会いによって,予想がつかない展開を遂げていくことを希望として述べ,当ワークショップを締めくくった.

[後々田寿徳]

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