シンポジウム/ルイジ・ノーノと《プロメテオ》

★1――ダルムシュタット現代音楽夏期講習会.1946年,ナチス政権下で禁止されていたシェーンベルクなどの音楽の普及を目的に,音楽学者ヴォルフガング・シュタイネッケが創始.とくに51年以降,ピエール・ブーレーズ(1925−),カールハインツ・シュトックハウゼン(1928−),ルイジ・ノーノなどの「全面的セリー主義」(total serialism.シェーンベルクの12音技法=セリー技法の考えを,リズム,強弱などの要素にまで全面的に拡張する理論)の作曲家たちを中心に,前衛音楽のメッカとなった.

★2――Anton (von) Webern(1883−1945). オーストリアの作曲家.シェーンベルクに学ぶ.シェーンベルクおよび兄弟弟子のベルクとともに,「新ウィーン楽派」と呼ばれる.シェーンベルク以上に徹底した12音技法作品を作り,後期作品で全面的セリーの先駆的な試みを行なったことから,全面的セリー主義者のアイドルとなった.

★3――Gruppen.109名のオーケストラを36名+37名+36名の3群に分割して聴衆の左,正面,右に配置し,異なるテンポの重ね合わせや音が空間移動するような効果をつくりあげた作品.1958年3月,シュトックハウゼン,ブーレーズ,マデルナの指揮により初演.さらにシュトックハウゼンは4群のオーケストラと4組の合唱が聴衆を取り囲む《カレ》(60)も作った.

★4――Improvisation sur Mallarme.マラルメの詩に基づくソプラノとオーケストラのための作品.そのI(處女であり,生気にあふれ,美しい今日……)(57)とII(ダンテル編みの窓掛けは自ずと消えて)(57)が1958年1月初演.III(密雲の崩れんばかりに覆う空)(59)が59年6月初演.後に同じくマラルメの詩に基づく《墓》(59)《賜》(62)とあわせて《プリ・スロン・プリ,マラルメの肖像》(62,改訂83)としてまとめられた.

★5――Le Grand Projet.フランスのミッテラン前大統領が推進した大規模なパリ再開発.ルーヴル美術館のピラミッド(I・M・ペイ),アラブ世界研究所(ジャン・ヌーヴェル),ラ・ヴィレット公園(ベルナール・チュミ)など,現代建築家を多く起用した.

★6――Renzo Piano(1937−).建築家.イタリア生まれ.代表作に《ポンピドゥー・センター》(リチャード・ロジャースと協同),《関西国際空港旅客ターミナルビル》などがある.

★7――Bernard Tchumi(1944−).建築家.スイス生まれ.代表作=《ラ・ヴィレット公園》など.現在,コロンビア大学建築学部大学院学部長.著書=『マンハッタン・トランスクリプツ』『建築と断絶』(邦訳=鹿島出版会)など.

★8――Christian de Portzamparc(1944−).建築家.モロッコ生まれ.92年フランス建築グランプリ受賞.94年プリツカー賞受賞.

★9――1987年秋,ノーノは「サントリーホール国際作曲家委嘱シリーズ1987」(監修=武満徹)の招きで来日し,11月28日に委嘱作《2)進むべき道はない/だが進まねばならない……アンドレイ・タルコフスキー》の世界初演を含むコンサートをサントリーホールで行なった.

★10――作曲家.1955年生まれ.作品=《序破急》(80),《プレリューディオ》(82),《東京1985》(85),《うつろひ》(86),《ヒロシマ・レクイエム》(89),オペラ《リア王》(98)など.89年以降,秋吉台国際20世紀音楽セミナーの音楽監督として若手作曲家の育成にも力を注いできた.

★11――Andre Richard.1944年スイス生まれ.ジュネーヴとフライブルクで作曲を学ぶ.89年からフライブルクの南西ドイツ放送局ハインリッヒ・シュトローベル記念財団実験スタジオのディレクター.晩年のノーノのアシスタントとして,《プロメテオ》など多くの作品の電子音響を担当した.

★12――Massimo Cacciari(1944−).イタリアの哲学者.70年代後半からノーノと《息づく清澄》(81),《プロメテオ》などでコラボレーションを行なう.現在,ヴェネツィア市長.著書=『ドラーン』『必然性の天使』『法のイコン』など.

★13――シュトックハウゼンはヘリコプターに弦楽四重奏団を乗せて飛ばす《ヘリコプター四重奏曲》を,進行中の大作《リヒト》に組み込むことを計画している.《シリウス》(76)もシュトックハウゼンの作品名.

★14――Repons(1981).六つのソロ楽器(ピアノ2台,ツィンバロン,ヴィブラフォン,ハープ,グロッケンシュピール:リアルタイムの電子的音響変換を含む)と室内オーケストラのための作品.ブーレーズが所長を務めた音響音楽研究所(IRCAM)が開発したテクノロジーを全面的に取り入れている.

★15――このシンポジウム(8月27日午後)に先立つ8月27日午前,アンドレ・リヒャルトは電子音響の実演を交えたレクチャー「ルイジ・ノーノの電子音楽」を秋吉台芸術村コンサートホールで行なった.

★16――ドイツの音響技術者ハンス=ペーター・ハラーが考案した,空間の中で音響を自由に動かすことのできる機器.《プロメテオ》で用いられた.

★17――Ferruccio Busoni(1866−1924).イタリアの作曲家・ピアニスト.代表作《ピアノ協奏曲》(1904).1894年以後,生涯のほとんどをベルリンで過ごした.無調音楽や微分音の理論を展開した著書『新音楽美学論』(1907)やバッハ作品の校訂者としても知られる.

★18――Henri Pousseur(1929−).ベルギーの作曲家.フランスの作家ミシェル・ビュトールとのコラボレーションによるオペラ《あなたのファウスト》(67)はアンリという名の作曲家がファウスト伝説についてのオペラを委嘱されるという作品で,聴衆が投票や口頭によって予め準備された幾通りかの物語の展開に参加できる.

★19――Mauricio Kagel(1931−).アルゼンチン生まれの作曲家.1957年以後ドイツに住む.音楽劇,ラジオドラマ,映画なども表現手段にする.歌手,オーケストラなどオペラの道具立てを揃えながら,アンサンブルは狂い,バレエ・ダンサーが体操をするといった不条理な作品《国立劇場》(71)を作った.

★20――fermata.クラシック音楽の停止記号の一つ.音符や休符を任意に延ばすことを指示する.

★21――LaSalle Quartet.アメリカの弦楽四重奏団(現在は解散).ヴェーベルンなど現代音楽を得意とした.ノーノとは50年代のダルムシュタット夏期講習以来の交友があり,《断片=静寂,ディオティマへ》を委嘱,初演した.

★22――ヴァイオリニストのアーヴィン・アルディッティ(1953−)が率いるイギリスの弦楽四重奏団.驚異的な超絶技巧と研ぎ澄まされた演奏で,現代音楽を演奏する弦楽四重奏団として高い評価を得ている.

★23――哲学者(1900−90).西田幾多郎に学ぶ.京都学派の代表的な哲学者の一人で,『文学界』の「近代の超克」討論にも参加した.著書=『根源的主体性の哲学』『世界観と国家観』など.

★24――...explosante-fixe....3本のフルート(リアルタイムの電子的音響変換を伴う)と室内オーケストラのための作品,もとストラヴィンスキーの追悼として作曲されたが,現在のヴァージョンは1991−3年にかけてIRCAMとのコラボレーションによりつくられた.

★25――Kontra-Punkte.ピアノ,フルート,クラリネット,バスクラリネット,バスーン,トランペット,トロンボーン,ハープ,ヴァイオリン,チェロのための作品.ピアノ以外の楽器は音楽の進行につれて姿を消していく.1953年初演.全面的セリー音楽の初期の傑作と評価されている.

★26――Federico Garcia Lorca(1898−1936).スペインの詩人・劇作家.詩集=『ジプシー歌集』『カンテ・ホンドの歌』など,戯曲=『血の婚礼』『ベルナルダ・アルバの家』など.スペイン内乱勃発直後,フランコ側に射殺された.

★27――哲学者(1870−1945).京都大学教授(13−28).日本的「無」を唱える独特の「西田哲学」を樹立し,田辺元らと「京都学派」を形成した.著書=『善の研究』『自覚に於ける直観と反省』『働くものから見るものへ』など.

★28――1997年3月4−6,8,9,11−13日,ブリュッセルのHalles de Schaerbeekで「アルス・ムジカ」音楽祭の一環として上演された.

★29――Robert Wilson(1941−).アメリカの前衛的な演出家.フィリップ・グラスとのオペラ《浜辺のアインシュタイン》(76)など,音楽家とのコラボレーションも多い.オペラの演出も多く手がけている.

★30――Jurgen Flimm(1941−).ドイツの演出家.オペラ演出も多く手がける.ノーノの《愛に満ちた太陽の光の中で》のフランクフルト公演(79)を演出した.

★31――Moses und Aron.旧約聖書のモーゼとアロンの物語に基づくシェーンベルクのオペラ.シェーンベルクは第三幕の台本を書いたが曲をつけず,第二幕までで未完に終わった

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