Feature: music/noise

Sakamoto+Tanabe

オペラ/インターネット/ノイズ
Opera / Internet / Noise

坂本龍一
Ryuichi SAKAMOTO
http://www.sitesakamoto.com

インタヴュアー=田辺美鶴
Interviewer: TANABE Mitsuru

(C) 1998 Ryuichi SAKAMOTO, TANABE Mitsuru
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デジタルメディア
音楽の数値化と変換

坂本さんは,新しいメディアが本質的にお好きなのではないかという印象を受けます.かつてCDやDATなどを率先して取り入れられていましたし,いまや「インターネットの坂本」というイメージも定着しつつあるように思いますが…….

坂本龍一――新しいメディアにはいつも関心があるし,いちはやく取り入れるほうなんです.CDが出たときも,アナログでもっていたレコードを全部CDに替えちゃったし,スタジオで使うテープレコーダーも,デジタルのものが出てきたときに,そっちに移行しちゃった.まだYMOをやっていたころ,20年近く前にデジタルに変えちゃいました.それ以来,基本的にはずっと――特に何かの目的でアナログの音色が欲しいという以外は――全部デジタルを使っています.なんでだろうな……デジタル好きとは言えますね.

 「数値化する」ということに魅力を感じるのかもしれません.数値化しておけば,メディアやハードが変わっても,データは半永久的に存在するわけです.アナログというのはモノに情報を乗っけたり焼き付けて固定させて,モノとして存在しているから,モノが壊れてしまえばその上の情報も壊れてしまう.そういうはかないガラス細工みたいな良さも好きだけれど,同時に,10代の頃から音楽を数値化するようなこともすごく好きで,今世紀の初頭ぐらいから数を扱って音楽を作るような運動が生まれて,十二音技法,セリー音楽,クセナキスのようなそういう音楽の作り方をずっと追いかけてきたので,まあ,自然の流れなのでしょう.

 音楽というのは音波ですから,空気に乗っかった情報です.空気は霧散してしまいますから,そのままですと消えてしまう.それが100年ぐらい前に音をモノに乗っけることを発明して,そして10年ぐらい前からそれを数値化することが始まって,霧散しなくなった.情報としてもっておけるということは,革命的なことだったと思うんです.人類の文明の歴史が5000年ぐらいだとすると,この100年とか10年の変容というのは革命的ですよね.プラス,数値化することによって,それを簡単に変換したり操作することができるというのが面白い.数値をいじれば,例えば現実には存在しない音も簡単に作れる.

昨年,音を映像に変換する《映像装置としてのピアノ》を弾くイヴェントを岩井俊雄さんとされましたが,そういう可能性についてはどうお考えですか.映像を見ながらの作曲,あるいは映像を演奏するということの可能性ですね.

坂本――映像を見ながらの作曲はしょっちゅうしています.映画音楽を作ったり,具体的な映像はなくても,音楽を作るときに風景を思い浮かべたり,写真を見たり,もっと抽象的な映像を考えながらやるとかね.岩井さんとのセッションでは,弾いた音が瞬時にしてディスプレイ上で色と形,それから動きとなって表われるので,トラックボールでコンピュータのディスプレイ上に線を引いたりマルを作ったりして絵を描くのと同じように,ピアノで絵を描くという体験だったんですね.

 この辺にこういう記号が欲しいからこう弾こうとか,ピラピラとした映像がこの辺にきたから,今度はこっちから出したいからこういうふうに弾こう,とか考えて,ずっと上を見ながら弾いていたんですけれど,そういうシステムを岩井さんが作って,僕がそのアプリケーションを使って遊ぶ,ということだったんです.それは,音楽でもないし映像でもなくて,その中間の重なった部分の一種のメディア・アートだったわけです.

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