特集:テレプレゼンス――時間と空間を超えるテクノロジー/ウィリアム・バクストン・インタヴュー
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「人間=人間」系と「人間=機械」系/ ――テレコミュニケーション・メディアも,それぞれの役割に特化すべきだということですか. WB――ええ,そうです.これにはもう一つ,きわめて重要な側面があります.人間=人間,人間=機械のインタラクション・テクノロジーについて考察する場合,実際にはフォアグラウンド(意識的活動の問題)の他に,バックグラウンドの問題があることに多くの人が気づいていない,ということです.e-mailや電話,ヴィデオ会議は,「人間=人間」系のフォアグラウンドの問題です.GUI(Graphical User Interface)や電子ホワイト・ボードは「人間=機械」系のフォアグラウンドに位置します.従来のすべての研究はフォアグラウンドのエリアにあります.欠けているのはバックグラウンドの研究です. 「人間=機械」系のインタラクションのバックグラウンドの良い例は,さっき取り上げた食料品店のドアでしょう.この場合,「人間=機械」系のフォアグラウンドの活動は「食料品を車に運ぶ」です.二次レヴェルの活動は「歩く」,三次レヴェルの活動は「私のためにドアが開く」です.ここでの人間と機械とのインタラクションは,トイレの洗面台で,蛇口の下に手をもっていくだけで水が出て,蛇口には直接手を触れない,という場合と同じです.蛇口に触れなくていいのは,蛇口のほうが,人間の手が出されたことを理解するからです.トイレは私がそこにいることを知っている,蛇口は,私がそこにいることを知っている ……,じつに賢いスイッチです.賢いスイッチは何と呼ばれているでしょう? コンピュータです. おかしなことです.私のThinkPadよりトイレのほうが賢いんですよ.コンピュータは私がそこにいることを知りません.反応できません.スイッチを押せば,コンピュータは停止しますが,その場合も,私がここにいることは理解していません.トイレの洗面台が知っているのに,コンピュータはなぜ,自分がどこで働いているのかというコンテクストも知らないのか.ばかばかしい限りです.こちらには何百万ものスイッチがあるというのに.スマート・ハウスの例のすべては,人間=機械インタラクションのバックグラウンド領域にあります.
でも,何といっても私の関心を惹き付けるのは,バックグラウンドでの「人間=人間」のコミュニケーションです.そしてフォアグラウンドとバックグラウンドを行き来するものです.それは,どのようなものでしょうか? これはなかなか興味深い問いです. ――なるほど,人間が実際に「いる」ことをバックグラウンドで知覚している感覚のことを「プレゼンス」と呼ぶわけですね? それを実現しなければテレプレゼンスはデザインできないと? WB――そうです.「気づいている」ことです.私たちはようやく,真のテレプレゼンスが実現できるところにさしかかっています.現在は,離れた場所で,ここと同じタイプの社会関係のインタラクションができるようにする仕事にとりかかっています.しかし,注意しておいていただきたいのは,現在の研究はすべて,ある時点以後,認知した以後の部分に焦点が合わせられているということです.日常,どのようにしてわれわれがチャンスを認知するか──どのようにして即時にミーティングの場に移行するか──についてはアプローチはまったくなされていません.重要なことは,バックグラウンドで存在を認知させることなのです. ウィリアム・バクストン |
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