InterCommunication No.15 1996

Feature


Conference Review
美術館におけるハイパーメディアと
インタラクティヴィティへの取り組み


3回「美術館におけるハイパーメディアとインタラクティヴィティへの取り組み」会議が,カリフォルニア州サンディエゴで10月11日から13日まで開催され,日本,韓国,ロシアのいくつかの共和国,ニュージーランド,ヨーロッパ,南北アメリカなど世界各国の600名を超える美術館専門家が一堂に会した.28を超えるセミナー,分科会,実演などによって参加者が情報を交換しあうこの会議を準備したのは,ペンシルヴェニア州ピッツバーグにあるアーカイヴおよび博物館情報処理センターのデヴィッド・ベアマンである.SFMOMAのピーター・セイミスは,3日間の会議を評して,ちょっとした世界旅行のようだったと言っている.
イミスによれば,この会議の重要な役割のひとつは,相互運用性のための国際的な基準を設け,ビジネスや国際的な共同作業に必要なインタラクティヴィティ・モデルを提供する方法を模索することである.
イミスは「チーム・ワークとミュージアム・インタラクティヴ」と題するパネル・ディスカッションをリードし,外部のコンサルタントと一組織内の専門知識を組み合わせるSFMOMAのユニークな取り組み方について語った.「われわれはハイブリッドなモデルによって運営しています」とセイミスは言う.「最良のデザイナーとプログラマーを雇い,われわれが満足して具体化できるようなテンプレートを提供するよう依頼しているのです」.彼によれば,こうすると美術館の限られた予算で大きな効果をあげられるということである.
験とはまさに,こうした未知の海でなされるゲームの別名である.ワシントンDCにあるナショナル・ギャラリーのスティーヴ・ダイエッツは「デジタル・イメージング」について語った.彼はアイディアを繰り返しテストすることがプロセスの中で一定の役割を果たしていることを論じ,予言者のようにこう勧告する.「もしみなさんがロードで“Y”にぶつかったら,それを選択してください」.
ブ・センパーは,科学と技芸(アート)と知覚を扱ったカリフォルニア州サンフランシスコにあるエクスプロラトリアムの副主事である.センパーの報告によれば,エクスプロラトリアムでは,実際に博物館に足を運ぶのと同数の観客がインターネット・サイトにアクセスしている.その数字は,美術館・博物館のインタラクティヴ能力とプログラムに磨きをかける必要性が今日ますます高まっていることを雄弁に物語っている.
サチューセッツ州ケンブリッジにある三菱電機研究所のキャロル・ストロシェッカーはネットワーク化した学習環境について話をした.ケンブリッジの研究所は,インタラクティヴな実験を通してあらゆる年齢の子どもたちが科学の概念を学べるような新しい方法を発展させて,この分野をリードしている.
「ヴィジュアル・スペースにおける慰めと友情」という未来を夢想するセッションでは,美術館用のフォーマットにおいてコンピュータを閉じた箱とみなす考え方をぶち壊し,いかにしてコンピュータが複数の経験の集まるプラットフォームになりうるかを検討した.未来のシナリオはさまざまだ.それは,いくつかの学習プロジェクトを共同で行なう,Webをベースとしたネットワークの共同体から,複数の人々がインタラクトすることによって現実空間に描きだす絵にまで及ぶが,いずれも,コンピュータの箱の前にぽつんといる孤独なユーザーというイメージとは正反対である.
ンタラクティヴィティを常に進行状態にある現実とするためにはインフラを備えていなければならないが,そのために現在考えうる方法は何かという話し合いももたれた.この理想状態を創り出すために,美術館にはインフラが不可欠だが,そのためには制度の手に委ねる部分も,また外部の資金も必要となる.
ECのマルチメディア開発におけるリーダー格のひとりジム・ヘムスリーは空想家と言われ続けてきたが,彼は美術館を取り巻く環境のなかで,インタラクティヴィティに対し,プラスあるいはマイナスに作用する要因および影響力について語っている.彼がプラスの影響力として挙げているのは,若い世代の出現,テクノロジー自体の進歩,RAM容量の増加,装置の低価格化,美術館・博物館の国際的な協力がますます増えていること,新たなヴィジュアル・リテラシーの創出などである.逆に,技術革新を阻む作用として彼は,著作権の問題,政府による美術団体の削減などを挙げている.


(カレン オード・美術批評/訳=おがわ なおや・フランス文学)


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