ICC
1968年にウィーンで設立されたコープ・ヒンメルブラウは,60年代という科学技術が発達し,既存の価値がことごとく問い直された時代において,重厚壮大な建築を逸脱していくユートピア的なヴィジョンを機知に満ちた浮遊感覚によって表明し,一躍時代の寵児となりました.以後40年以上にわたって彼らは,建築を身体,空間,環境,都市へと接続され拡張していくメディウムと見なしながら,実際の建築そして建築的実験という二つの側面で進化を遂げてきたといえます.
21世紀に入り,素材や構造計算などをはじめとする建築技術の進歩は,コープ・ヒンメルブラウのヴィジョンを実際の建築において実現することを可能にしました.彼らが当初から抱いていた構想に,技術がようやく追いつき,世界各地で大規模な建築プロジェクトが実現しています.流れる大気を可視化したかのような建築,重力を超えて浮遊するかのようなダイナミック・フォルム,光によって建築の内外が交錯するかのような空間…….実現された建築は,機能的でありながら同時に先進的なオブジェでもあり,また訪れる人々の知覚や意識を触発するオープンな場を開いています.情報ネットワークが発達し,都市や自然環境との共生が志向される現在,コープ・ヒンメルブラウは,人と建築の新たな関係可能性を発信しているのです.
本展では,コープ・ヒンメルブラウの「建築的実験」の側面に焦点をあて,アートと科学技術を横断する最新のプロジェクトを2つ紹介いたします.1つめは,1969年に実験的に実施され,2008年にようやく実現された《アストロバルーン 1969 リヴィジテッド——フィードバック・スペース》.体験者の心拍にリアルタイムで反応する壮大なインタラクティヴ・インスタレーションです.そして《ブレイン・シティ・ラボ》.脳のニューロン・ネットワークと都市の生成発展における類似性を扱うリサーチの最新成果をインスタレーションとして展開します.いずれも2008年の第11回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展で発表され話題を集めたもので,初の巡回先となるICCでは最新ヴァージョンでの展示となります.これらのプロジェクトを介して,「人々によって作られる〈建築〉」という,68年から一貫してヒンメルブラウが追求しつづけている「未来」へのヴィジョンと,それが現在において新たな形で「回帰」している,まさに最先端の現場に立ち会っていただくことができるでしょう.

* “COOP HIMMELB(L)AU”は,「空色共同組合」の意味(“HIMMELBLAU”は独語で「空色」,“Cooperative”は英語で「共同組合」).“HIMMEL”は「天の」,“BAU”は「建築」を独語で表わすため,“(L)”を略すと「天の建築共同組合」というもう一つの意味が浮きあがる.
コープ・ヒンメルブラウ:回帰する未来 プロジェクト・チーム プランニング:コープ・ヒンメルブラウ
ヴォルフ・D・プリックス/W・ドライプホルツ&パートナー
デザイン主幹:ヴォルフ・D・プリックス
プロジェクト・パートナー:マルクス・ピルホファー
プロジェクト・マネージャー:フェリックス・グマイナー
デザイナー:トーマス・ヒンデラング
コミュニケーション・ディレクター:シンシア・カルマイヤー
チーム・コミュニケーション:フォルカー・ゲッセンドルファー,イザベル・オスト,ノーラ・シュレーグル
グラフィックス:ティモ・リーケ,ヴァネッサ・カストロ
アーカイヴ:カロリーネ・エッカー
アシスタント:イヴォ・デ・ヌーイジャー
模型:ポール・ホゾウスキー,ナム・ラチー,セバスティアン・ブフタ
3次元模型出力:ルーカス・ガレー,アンナ・シュツトゥルツェンベッヒャー
ロジスティックス:ポール・ビエルナ

技術制作&ヴィジュアリゼーション:Conceptual Art Technologies | Cat-x, ウィーン
フロリアン・プリックス,ギュンター・シーベック,ハンネス・ケッヒャー
コンサルタント: アルテックス,アルテックス・アート・サーヴィス,ウィーン
シュルテス,シュルテス・ニュー ,ウィーン