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はじめに
キム・スージャ「針の女」- 中村敬治
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アーティスト・トーク
 
2000年5月26日(金)〜 6月18日(日) [終了しました.] ギャラリーD





はじめに


キム・スージャ(金 守子)は現在最も活躍している韓国人芸術家といえるでしょう.ここ数年,日本も含めヨーロッパやアメリカで個展を開催し,主要な国際展やグループ展への参加も多数あります.昨年はヴェネツィア,ブリスベーンのビエンナーレに出品し,オーストリアのグラーツ近郊で二人展,ほぼ同時にCCA北九州で個展をおこなっています.また今年は,開催中の光州ビエンナーレに出品しており,同時にソウルではロダン・ギャラリーで個展を開催中です.

彼女は極く初期には韓国の伝統的な織物や布地を用いたコラージュ風の作品を作っていましたが,やがて伝統的なベッド・カヴァーを使いはじめました.大きな包みにしたり(bottari),美術館のカフェのテーブルにかけたり(世田谷美術館ほか),何枚も自らかぶったパフォーマンスもありました.ベット・カヴァーは,誕生から,成長と休息,そして性を経てやがて死んでゆく,人の一生の象徴です.

これらのベット・カヴァーによるインスタレーション的な作品がよく知られていますが,彼女は並行して近年ヴィデオ作品も制作しています.たとえば渋谷の雑踏に彼女一人が背中を見せて微動もせずに立っています.周りを様々な人々が,忙しそうにあるいは所在なく,行き過ぎます.誰一人彼女に注意をむける者はいません.ある時は人々の波に隠れてまったく見えなくなりますが,ある時は流れてゆく人々のなかに厳然と不動の姿を現します.黒っぽい服装と長い髪が周囲の雑多な色彩 からひときわ力強く浮かび上がります.

同じ方法で上海で撮影した作品もあります.ここでは通行人たちの動きがやや緩慢であり,それ以上に好奇心まるだしにあからさまにのぞき込んだり立ち止まったりする人が多いのが面 白いといえます.しかしここでも彼女は微動もしません.街はちがいその雰囲気はちがいますが,彼女はいつも黒っぽい服の背中でそこに実存し,やがてすべてに溶けあってゆきます.インドの大河や流れる雲に対面 した作品もあります.

社会や環境や他の人々の中に非在の自分を縫い合わせ結びつけようとする「針の女(A Needle Woman)」としてのアイデンティティ探求のパフォーマンスの映像です.したがって布を使うインスタレーション作品とヴィデオ作品とは同じ世界へつながっているのです.

今回は,未発表の新作をふくめて六点の映像で部屋を満たします.瞑想的な,思索的な空間に浸ることができるでしょう.