ICC


11月1日(水)〜11月19日(日)

NTTコメント

電話やパソコン通信の発展形態として,CG,ヴィデオ,音声等のマルチメディア処理を適用したコンピュータ通信により,サイバースペースと呼ばれる仮想的な空間を通信網上に生成し,そこに多数の人間が集まってコミュニケーションや情報交換を行なうというコンセプトが考えられている.通信網上の仮想的な空間としては新しい電子的社会空間とも言える,情報や人との出会いの場を提供するコンセプトである.NTTでは,効用の高いサイバースペースの具体化を目指して,ヴィデオ映像をベースとし,サイバースペースと実世界が融合した多人数参加型のコミュニケーション環境(InterSpace)のコンセプトを提案し,システムの開発を進めている.

InterSpaceシステムでは,三次元CGを用いて仮想的なビルディング,部屋,広場を生成する.この中において各ユーザーは,あたかも自動車を運転するよう自由に動き回る,他のユーザーの分身に近寄って話しかける,目に留まったものに近づいて詳しく観察する,集まって討論するといった,多様なインタラクションを行なうことができる.サイバースペースをデザインする際には,現実の物理空間のデザインとは異なり,非常に自由度がある反面,人間の認知機能や使いやすさをどこまで考えられるかが重要な課題となる.

今回の作品は,InterSpaceのプラットフォームを用いて,コンピュータ・アーティストの藤幡正樹氏とNTTの技術陣との協同作業により,新たな視点からサイバースペースのデザインを試みた.この空間の新しい飛躍のために,できるだけ多くの方に体験していただいきたい.



藤幡正樹

あなたが今,向かいあっているのは,いわば一種の「世界モデル」.マトリクスを構成している個的な領域が,キューブとして提示されている.それは,ある恣意的な関係性によってつながれて,マトリクス状の一見単純な世界モデルが,ここには提示されている.しかし,それは外見的なものにすぎず,操作され,内部を動きまわることによってしか触れることができない.そこには絶対的な客観性がない.探検することによってのみ立ち現われてくる,現場での主観的なリアリティによって生成する世界モデルなのである.結局それは,客観的には観測不可能な世界なのである.

このプロジェクトは,このことを,InterSpace内部のデザインとそのメタファーである蓋付きマトリクス箱のデザインとの意図的なズレによって示そうという試みである.

1——眼に見える装置
■外キューブ(InterSpace用インターフェイス)
■マトリクス箱
■コンピュータ+ネットワーク

2——内部
■1単位(キューブ)の内部的な構造,デザイン
■マトリクスどうしの関係性
■ユーザーのイベントによる関係性の変化


世界というものを,われわれはどのように認識しているのだろうか? いったい世界と呼べるようなものが本当にあるのだろうか? われわれは産まれた時から,われわれの外側に,すでに世界がそこにあるように信じ込まされてきた.しかし,世界はわれわれによってしか認識されえない.われわれが意識しない限り,それはわれわれの外部として知覚されることもないものだ.それは,おそらく言葉の発生と時を同じくして発生した概念なのであり,つまり,言葉というメディアによって,われわれは初めて客観的な思考の世界を開くことができたのだ.

ここ数十年の間のコンピュータ・テクノロジーの発達によって,さまざまな問題が再確認され,再検証されようとしているように思われる.それは,コンピュータそのものが一つのメディアであるという認識と等しく進化し始めているように考えられる.コンピュータの発達によって,さまざまな世界の断片がコンピュータの上に移し取られ,モデル化され,実験されるようになった.それは,はじめは数学の世界の中だけでのできごとであったが,あっという間にあらゆるできごと,現象,行為までもが,コンピュータの中へ移し取られていったのだ.モデルを作り,それを操作することによって,しだいに世界のありかたが,今までのような一義的な見方では定義できないものであるということがはっきりとしてきた.
ここでは,デジタル・ネットワーキングという技術基盤の上に,現実には不可能な関係性の糸を張ることで,こうした客観的にはとらえることのできない世界モデルを,探検可能な空間として実現しようと考えた.
まず,視覚世界のドメイン(遠近法の領域限界)をひとつのキューブとして考える.個々のキューブは,ヴァーチュアルに隣接するキューブとつながっているので,一つのキューブから隣りあうキューブへと自由に移動することができる.
特別のキューブでは,隣へ隣へと移動する以外に,ある特定のキューブへあるいはランダムに選ばれたキューブへとジャンプすることが可能である.このようなヴァーチュアルな世界と同時に,ここでは現実世界の方に実物によって作られた世界のモデルがおそらく多くのキューブが連なったかたちで提示される.各々のキューブにユーザーが存在していれば,そのキューブの箱の蓋が開くように作られている.つまり,ユーザーの行為はこのキューブが連なった模型によって第三者によって目撃されることになる.しかし,この模型もまたヴィデオ映像によって撮影され,ヴァーチュアル空間の中の任意のキューブに貼り込まれる.ユーザーはこのキューブの中のヴィデオの映像からまたその中のキューブにジャンプすることが可能である.
また,各々のキューブの空間には日常的な物体が置かれている.それらは現実空間の模型とヴァーチュアル空間の関係を示すためのアイコンとして機能する.ということは,これは一種の言語としての機能も果たすことになる.つまり,ヴァーチュアル空間の物体が指し示すものは,それそのものであると同時に,それが置かれた空間を指すことになるからである.しかも,現実の模型の方に,それが異なったいくつかの箱に入っていたら…….空間はいとも簡単に歪んでしまうのだ.

こうした不可解な空間が,これらの技術によって定義可能になってしまう現代という時代は,いったいなにをわれわれに与えようとしているのか? このことをこのインスタレーションでは考えてみたい.




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