ICC Review


講演会 「グレゴリー・バーサミアン自作を語る」
7月30日 5階ロビー



7月28日−9月10日,ICCで開催中の「彫刻アニメーション 夢のリアリティ――グレゴリー・バーサミアン」展のために来日した作家の講演会がもたれた.以下はその概略である.

70年代はじめのアメリカの若者の関心は,いかに徴兵制を逃れるかという不安とともににあったと1953年生まれのバーサミアンは語った.そのためもあってか,彼は,ウイスコンシン大学で初め哲学,特にサルトルなどの実存主義を学んでいた.サルトルらの実存主義哲学は,世界の基盤の喪失へとたどり着く.しかし一方で,バーサミアンは,芸術家のみが自分で世界を基盤から構築することができると主張するニーチェ哲学に触発されて,芸術への道を踏み出した.よい教師(彫刻家)との出会い,また,子供の頃から慣れ親しんでいた機械やメタルワークへの習熟のために,彼は彫刻を制作するようになった.

70年代後半になって,彼は核爆発の悪夢をよく見るようになったという.それは,高熱で一瞬にして窓ガラスが風船のように膨らんでいくイメージやハーケンクロイツから吊り下げられた爆弾が警鐘をならすチャイムなどとなって現われた.一方では,偶像崇拝化されるテレビの祭壇やアメリカ郊外の心性としての神経症的な潔癖性などを皮肉った作品が,日常生活や現代文化を標的として,後のアニメ化された彫刻群の物語とつながっていく

芸術への飢餓感から83年にはニューヨークへ移住する.そして,90年代,彼は彫刻アニメーションへと足を踏み入れた.従来の彫刻が作品の知覚の時間性を観客の視線にゆだねていたのに対し,ゾーイトロープというメディウムは,時間性を作家自身がコントロールしうる.この時間は1秒から6秒という非常に短い時間において物語を構築しなければならない.彼は,この制約のなかでさえ,依然として豊かな可能性があると考えている

聴衆との質疑応答は,予定時間を延長してさせるほど熱のこもったものとなった.個々の作品の内容や扱われているモチーフ群,デジタル・テクノロジーに対する彼の位置の取り方,夢,集合無意識,物語時間の制約などに対する質問に対して,作家が(まるで哲学教師のように)丁寧な解説を行ない,作品の射呈への理解をさらに深めることになった.なお,9月3日にバーサミアンの作品をめぐって養老孟司の講演会がもたれる予定.

[上神田敬]


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