ICC Review


キム・スージャ「針の女」
関連イヴェント アーティスト・トーク「自作を語る」
2000年5月27日 5階ロビー



現在最も活躍中の韓国人女性アーティストと言われるキム・スージャ(金守子)であるが,わが 国ではその作品や活動にまとめて触れる機会は残念ながらいまだなかった.その意味で ,今回「針の女」展に関連して行なわれたこのアーティスト・トークは,彼女の20年近くにおよぶ足跡を辿ることのできる絶好の機会であり,多くの熱心な来場者があった.

トークは主に作品のスライドを中心に行なわれ,初期の韓国の伝統的な布を用いたパッ チワークや絵画的な作品,あるいは布をより立体的かつインスタレーション的に展開した作品,さらに近年のヴィデオ・パフォーマンスへと,各時期の変遷における彼女のコンセプトの展開の説明を交えながら,平易で,しかし慎重に選ばれた言葉によって解説 が進められた.特に,重要な素材である布の意味においては,決して抽象的な韓国の伝統や歴史に還元されうるものだけではないとの説明があり,自らの幼少期からの体験に基づくその 成立の過程について詳細に述べ,非常に興味深いものがあった.

最後に彼女は今回のヴィデオ・インスタレーション《針の女》について触れ,男性性 と女性性,または暴力性と治癒性などといった両義的な,あるいは弁証法的に対立するイメージをあわせもつ「針」という象徴的な存在の,彼女自身にとっての意味を語り,西欧近代的な美術や文化にみられるアプローチとは異なった,独自の方法論への展望を示し,そのトークを終えた.

[後々田寿徳]


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