情報は自由を求めている

ジレンマを超えて

情報の自由なコピーを許して収入を上げることも不可能ではない.例えば神奈川工科大学の森亮一が提唱している「超流通」は,ソフトウェアをコピー自由にする代わりにコンピュータに内蔵されたチップによってソフトウェアの利用回数をモニターし,それに応じて課金する仕組みである.これまで,そういうハードウェアをすべてのコンピュータに内蔵することはあまり実際的な解決策とは言えなかったが,インターネットでJavaのようなソフトウェアを使えば同様の仕組みは可能で,そうした技術は数多く提案されている.

また著作権をミュージシャンから安く買い取り,その曲を無料で公開することもできるだろう.旧社会主義国では,これに似た仕組みがあったと言われ,科学技術の研究を政府が助成して無償で公開するNSF(全米科学財団)の役割もこれに近い.この仕組みの最大の難点は,適切な価格をつけるのがむずかしいことだが,インターネットの「逆オークション」を使えば,価格づけも可能だろう.

さらに,創作する側が金銭的な報酬を求めているとは限らない.インターネットの中核となっているIETFやW3C[★4]などの組織では,開発の成果はすべて公開され,報酬もいっさい支払われないが,そこでは史上かつてない急速な技術革新が行なわれている.この究極的な姿は,Linuxに代表されるオープンソース・ソフトウェアである.Linuxは,世界中のハッカーによって無償で開発され,ソースコード(内部構造のプログラミング言語による記述)も公開されているが,その性能や安定性は膨大な開発費をかけた マイクロソフトのWindowsよりもはるかに高い.金銭的なインセンティヴがよい商品を生み出すとは限らないのである.

ハッカーの元祖,エリック・レイモンドが言うように,技術者にとって最も大事なのは,じつは自分の腕前を自慢することである.こうした欲望は,優秀な技術者ほど強いから,IETFやオープンソースのコミュニティは,こうした優秀な人材だけが集まる「自己選択」のメカニズムをつくりだし,デジタル情報のジレンマを超える道を開いたとも言える.


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