情報は自由を求めている

著作権の呪縛

こうしたレコード業界やハリウッドの政治力によって,コピーに対する規制は年々強まっている.特に,今年から施行された米国の「デジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)」では,コピー・ツールやウェブ上のリンクまで規制の対象にしている.しかし,このような規制強化は,ほんとうにアーティストを守っているのだろうか.

ナプスターのファンであるコートニー・ラヴ(パンク・ロックのバンド「ホール」のリードヴォーカル,女優)は,レコード会社を脱退してMP3で音楽を配信するウェブサイト(http://www.holemusic.com)を設立した.「レコード会社こそ,ミュージシャンを搾取する海賊だ」というのが彼女の主張だ.また1960年代のロック・バンド「バーズ」のメンバーだったロジャー・マッギンは,議会で「ミュージシャンがナプスターで失うものはない.60年代にレコード会社はバーズに1セントも支払わなかった」と証言した.無名のミュージシャンがデビューするときは,レコード会社に一方的に有利な条件で契約させられることが多いため,こうした紛争が絶えない.

日本でも坂本龍一は,JASRAC(日本音楽著作権協会)が著作権の処理を独占していることに疑問をもち,独自の著作権団体を設立した.JASRACは,1年間に徴収する料金が1000億円にものぼるが,その不明朗な処理をめぐって内紛が起こったり,カラオケ料金の徴収をめぐって暴力団との関係が取り沙汰されるなど,「著作者の代表」というにはほど遠い団体だ.

インターネット上のマルチメディア配信が未来のビジネスとして期待されて久しいが,現実にはまったくビジネスとして成立していない.例えば昔のテレビ番組を流そうとすると,出演した俳優など「隣接権者」全員の許諾が必要で,バックグラウンド音楽にも著作権料を払わなければならないなど,複雑な手続きが最大の障壁となっている.

こういう状態は著作者の利益にもならない.1984年,米国の最高裁は,ソニーのVTRの販売差し止めを求めたユニバーサル・スタジオの請求を退け,個人が私的に録画することを認める判決を出し,これによってレンタル・ヴィデオの市場が成立した.現在の映画業界の収入の約40パーセントはヴィデオから上がっており,もしもソニーが敗訴していたら,映画産業はこの大きな収入源を失っていただろう.

そもそも著作権とは何だろうか.財産権のなかで,なぜ著作だけを特別の権利で守らなければならないのだろうか.これには歴史的な理由がある.もともとコピーライトを「著作権」と訳すのは誤訳で,これは16世紀にギルドが写本を独占するためにつくられた「写本独占権」である.その後,印刷術の発達によってコピーが容易になると,写本だけを独占してもだめなので,著者の「人格権」を口実にして他人のコピーを取り締まる仕組みにしたのが現在のベルヌ条約(著作権に関する国際条約)の原型だ.

著作権法が守っているのは,こうした業界の既得権にすぎず,ユーザーとクリエイターの利益は単純なトレード・オフの関係にあるわけではない.米国デジタル・メディア協会が議会の委嘱を受けて行なった調査では,MP3の普及でCDの売上は増えたという結論が出ている.


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