IT革命の本質とITベンチャーへの期待
――日本の選択/ビジネス・モデル特許/地球温暖化

IT革命で日本が遅れた理由は,明治以降,同じ足並みで国民全体が成長していくという仕組みをきわめて精緻に作り上げてきたため,産業構造そのものが工業社会に適合しすぎて,情報社会に転換できないからです.例えばオールド・エコノミーを代表する巨大企業が経済団体などのトップを占めていますが,情報社会で必要なのは,足並みの揃った大群ではなく,バラバラでもいいから突出した,性質の違う人々が多数いるということです.その転換に遅れているのです.

今日米国が進んでいる理由は,米国の伝統的な精神であるフロンティアの概念を情報社会への転換にうまく適用したことです.クリントン/ゴア政権は「サイバー・フロンティア」という言葉を盛んに使いましたが,これはケネディが「ニュー・フロンティア」という言葉で米国の方向転換を図ったのと似ています.

フロンティアでの勝負は,簡単に言えば「早い者勝ち」です.象徴的な例をあげると,シスコ・システムズがルーターの世界シェアの80パーセント以上を占めていることです.80パーセントという数字は,IBMが1980年前後に世界のコンピュータを支配し,頂点を極めたときを上回るシェアです.それを創業わずか15年のベンチャー企業が成し遂げたのです.シスコ・システムズの成功の理由は,最初にルーターの世界へ突入し,フロンティアを自ら切り拓いたことです.

一方,北欧諸国の成功の理由は,次の新しい社会に不要だと判断したものを「切り捨て」たことにあります.旧弊を切り捨てながら,次の時代を牽引する有望分野に軸足を移しました.その象徴的な企業はフィンランドのノキアで,もともとパルプ産業,石炭産業,ゴム産業,エネルギー産業などを抱え込んだ複合企業でしたが,90年代初頭に一気に切り捨て,携帯電話機と通信事業いう情報産業へ転換しました.いまではノキアは世界の携帯電話機の30パーセント近いシェアを握っています.


前のページへleft right次のページへ