テクノロジーを利用する動機について考えた

この中山の作品を筆頭に,本展にはテクノロジー色が影を潜めた作品が大半を占める.いわば,従来のICCらしからぬ展覧会であるとも言える.最新の先端技術をよそに,ローテクを用いた作品も堂々と展示されたのだ.

テッド・ヴィクトリアも,中山と同様,非デジタル作品を発表した.《どなたかいますか?》は,家の形をした立体の表面に,数多くの魚が泳ぐさまを投影.だが,よく見ると魚ではない.昆虫やミミズのように,その体には環節がある.実際に泳いでいるのは体長1センチにも満たない水棲甲殻類のシーモンキーで,巨大化して映しているのだ.巨大化されたシーモンキーも意外だが,その仕掛けにも意表をつかれる.いたってシンプルで,レンズと暗箱と鏡を使った仕掛けにすぎない.紛れもなくローテク.現に,彼は冷凍食品のオマケについていた子供向けカメラ・オブスキュラをヒントに,いまの作風を築いていったという.

セレステ・ブルジエ=ムジュノーは,ビニール・プールに大小さまざまな皿や椀,小鉢などを浮かべた作品《無題(シリーズ#3)》を発表.ゆったりとした水流にそって食器が動き,そしてぶつかり合って音を奏でる.つまり,水の流れが,音の調べを生む.ときにはリズミカルに,ときには荘重なハーモニーとなり,やはり水流が音と化す鹿威しよりもはるかに音楽的調性を生み出す.また,鮮やかな青い絵皿がおだやかに水面を進むさまも美しい.耳ばかりでなく目も楽しませてくれる音楽なのである.もちろん,このサウンド・インスタレーションも技術抜きには成り立たない.人工的に水流を起こす仕掛けが必要で,さほど複雑な技術ではないと思われるが,それを云々したところでこの作品の魅力は伝わるまい.

一方,本展にはデジタル・テクノロジーを駆使した作品も展示された.その一つが,カミーユ・アッターバックとロミー・アキタヴによる共作《テキスト・レイン》だ.インタラクティヴィティに富み,緻密な作品である.画面に鑑賞者の姿が映し出され,さらに詩の一節が降り注ぐように現われる.そのテキストは身体の輪郭に沿って表示され,やがてはかなく消滅する.また,手や指を動かすと,同時に文字の連なりもしなやかに動く.あたかも,文字がダンスをするかのように.なお,アッターバックはアートやデザイン,テクノロジーの枠を超えて融合を目指すニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オヴ・ジ・アーツのインタラクティヴ・テレコミュニケーションズ・プログラム(ITP)で特別研究員,准教授を務めるアーティスト.作品制作のためのソフトウェアも彼女みずから開発するというから,テクノロジーの面からも目を見張るものがある.とはいえ,背後にある技術以上に,目の前の息を飲むほどポエティックな現象に釘付けになる.


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