SRLカタルシス

NF ――サーカスの話が出ましたが,今回のショーは「世紀末マシーンサーカス!! 」という日本語のサブタイトルが付いてますね.これはICC のキュレーターと一緒に決めたものですか?そしてあなた自身はサーカスだと定義していますか?

MP ――ああ,あれは今回のプロモーションをやったアップリンクの浅井隆さんだ.ほかに例のないショーを,日本でプロモーション的になんと呼ぼうかと思案していて,僕が「“マシン・パフォーマンス”とでも呼んでおけば?」と浅井さんに言ったら,「ダメダメ,“パフォーマンス”なんて言ったら,みんなアートだと思って誰も来なくなるよ!“サーカス”のほうがいい」(笑),「じゃ,“サーカス”でいいよ」となったわけだ.

NF ――長いタイトルを付けることが多いという風に思いますけれども,なぜ長いタイトルを付けるんですか?

MP ――まあ,今回のタイトルは僕にとってはかなり短いよね(笑).ショー自体の規模が小さかったから,かなりシンプルにしたんだ.

僕たちにとってタイトルというのは,ショーのイメージやアイディアを膨らませたり,具体的な進行を考えるための,いわばガイドラインのようなものなんだ.また,ある意味ではレイモン・ルーセル的な働きをするとも言える.彼の小説は,とても奇妙で脈絡のない構造で書かれている.しかも最初の何冊かはマシン・パフォーマンスを著わしたものだ.あれほど独創的な作品を20 世紀初頭に書いたとはね[★7 ].僕らのタイトルはつまり,ルーセルが構造的なガイドラインを使って小説の機能を方向付けたのと,どこか共通していると思う

実際,タイトルをつくるにはまずそのショーで何が一番やりたいのかを考える.次に大きな辞書を何冊か並べて,しばらくいろいろと繰っていくと,言葉がだんだん不条理なものに思えてくるんだ.そしていろんな単語を組み合わせる作業に取りかかる.やがて言葉の意味を超越する瞬間が訪れ,タイトルが浮かび上がるわけだ.それを見た人はなんとか意味を理解しようとする.タイトルはいわば暗号コードのようなものとして,ショーの可能性を差し出すものと言っていい.暗号の世界にはワンタイム・パッド[おのおの一度しか使わない暗号帳]というのがあって,二人の人間が交換して解読し合おうとするんだけども,僕らのショーがこのワンタイム・パッドとして機能するためのきっかけを,タイトルはつくるわけなんだ.

これまでのタイトルにはショーと直接結びついていたものもあるし,ほとんど無関係のものもあった.ただ,ほとんど無関係と言っても,ショーの物理的な構成や演出のガイドラインとして重要だった点は変わらない.


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