モザイクから遠く離れて

スーパーコネクティヴィティ

 ネットには,デリック・ドゥ・ケルコフの言う「結合知(connected intelligence)」の形成を予感させるような,いくつかの実験的な試みが立ち上がっている.最後にそれを取り上げてみたい.

 例えば,地球外文明探査(Search for Extraterrestrial Intelligence)をインターネットに繋がったコンピューティング・パワーを結集して成し遂げようという「SETI@home」[図8,9].99年4月のスタート以来,世界中から90万人以上の参加を集め,現在も着々とアレシボ電波望遠鏡がキャッチした全天観測データを分析しつづけている.SETI@homeのクライアント・プログラムはPCのスクリーン・セーヴァーという形態をとっていて,アレシボの受信データから細切れにされて配信されてきたデータを受け取って,ユーザーがPCを操作していない時間にデータを解析,その結果をSETI@homeのサーバーに送り返す.

 2年間の実験で果たして有意な結果が得られるかはまったく未知数だが,ここには,分散した個の力が繋がり合い,従来の制度やシステムのもとではおよそ不可能だった認識や経験をわれわれにもたらしてくれるという,まさに“collective brain”の観点からみて大きな魅力を感じとることができよう.

 狭義のコンテンツとは異なるが,社会的なコンテクストとして興味深いものに,Linuxに代表されるオープンソース・ムーヴメントがある[★18].これもまた,結合知の可能性を具体的に示したものだと言えるだろう.いまや,ITビジネスがこぞってLinux礼賛に動き,ネットスケープ・コミュニケーションズの「Mozilla」プロジェクトや,アップルの「MacOS X」など,オープンソース・モデルを採用した開発プロジェクトがいくつも立ち上がっている.必ずしも,これらのプロジェクトの現状が順風満帆ではないとはいえ,オープンソース型のプロジェクト・デザインは,企業組織のマネジメント原理や都市デザイン,その他さまざまな社会システムの検討や運用のメタ・モデルとして有効性をもちうるのではないか,との期待もある.セオレティカルにこのオープンソースの可能性を追究する試みも,徐々に出はじめている.

IP on everything

 以上,拙速ながら現状のインターネット・コンテンツから未来への進化が垣間見えるいくつかのトピックを取り上げてみた.だが,ここで見てきたトピックスは,次世代コンテンツへの進化の,ほんの入り口を示しているにすぎない.

 次世代のIP(Internet Protocol)体系であるIPv6[★19]は,現在使われているIPv4の32ビットから128ビット・アドレスへと拡張され,地球上を1平方メートルあたり1兆×1000億倍のIPアドレスで埋め尽くすことが可能になる.まさに「IP on everything」の時代が到来する.そのとき,われわれの世界に存在するすべてがこの次世代インターネットのコンテンツとなり,コンテクストとなっていくのだ.

 「すべてをコネクテティヴな状態にする」――こうした指向性はインターネットが草創期からもっていたのであり[★20],本質的にインターネットは(いまだにマスメディアの多くがレッテル貼りする)仮想現実などではなく,実世界指向のメディア環境なのである.次世代インターネットのコンテンツとは,何らかのかたちでわれわれにこの「全接続状態」を体験させてくれることになるだろう.

前のページへleft right目次ページへ