特集:テレプレゼンス――時間と空間を超えるテクノロジー/ウィリアム・バクストン・インタヴュー

多様性の追求をくみとるテクノロジー

――周囲の環境をも包含し,どこで,何を,どのように使うものであるか理解したテクノロジー・デザインが必要だということですね.そしてそれは多様であるべきだと.具体的にはどのようにアプローチすればよいのでしょうか?

WB――ええ,現時点では,ここにさまざまな問題があります.現在の問題は,どのコンピュータもまったく同じに見えるということですね.ヴィデオ会議や電話といったテクノロジーを考えてみると,これらのテクノロジーは使う人/場所に関わりなく完全に同一です.
日本の会計士であろうと,ドイツのコンピュータ科学者であろうと,カナダの医師であろうと,フランスのコンピュータ・アニメーション製作者であろうと.実際のところ,コンピュータ・テクノロジーは,この15年間,基本的なコンセプトにおいてはまったく変わっていません.Windows 95やNTを搭載した最新鋭のコンピュータを見ても,1982年に登場したXerox Starと完全に同じように思えます.
今日のヴィデオ会議も20年前のヴィデオ会議と何ら変わるところはありません.現在の電話も,本質的な進化はしていない.唯一,進化と言えるのは,コストと普及度と,あとはまあスピードということになるでしょう.でも,コンセプトの点では,デザイン哲学の基盤にある考えはまったく変化していないのです.この点において,われわれはもっと賢くならなければならない.私は今日のテクノロジーを考えるにつけ,こんなふうに問わずにはいられないのです.
「いまある,これで全部なのか? これらのテクノロジーを生み出した人たちが最初に考えたままではないのか? もっと良いものは生まれないのか?」と.私の答えはもちろん「そうあってほしい」というものです.現在の状態はひどすぎますからね.これが,私の言うべきことの第二点です.第一点は「社会的な側面から見て何が必要とされているか?」.第二点が「デザインのアプローチはどのようなものか?」ということです.

第三点は「こうした事象はどのようなかたちで起こりうるか,その例は?」です.ある会社に足を踏み入れたときに,私はまず,その会社がアニメーション会社か会計事務所かを知りたい.アニメーション製作か会計検査かでは,まったく異なったツールが必要ですからね.テレプレゼンスの話に移りましょう.
共同作業をサポートする新しいテクノロジーを作るためには,これまでの共同作業をサポートしてきた古いテクノロジーを眺めて,そこから何が学べるかを知ることがベストです.いろいろな問題があっても,それは新しいものではないと思います.テクノロジーは新しくても,問題自体は新しくはない.つまり,正しいか間違っているかを判断する基盤はすでにあるわけです.何が新しいのかを考えてみると,テクノロジーは新しいかもしれないが,社会は決して新しくないわけです.そうなると結局のところ,そのテクノロジーも新しいものではないのです.すべてが新しいという確信のもとにテクノロジーをデザインしようとすれば,方向を失ってしまいます.
しかし,社会構造や組織構造のデザインは新しいものではない.デザインのベース,観察すべき良い場所はすでにある.すでにさまざまな組織をサポートしているテクノロジーがある.

非常に良い例が,建物,物理的な構造物です.ある建物の中を歩いてみる場合,まずなすべきことは──これは,このテーマに関心をもっている人なら誰にとっても,きわめて有用な実践ですが──ノートをもって,一日中,耳にするすべての会話の記録をとることです.どのくらいの時間続いたか,何らかのプランのもとに行なわれた会話か,前もって予定された会話か,何人の人がいて,どんな場所で行なわれたか,といったことをメモするのです.大変興味深いことに,こうした会話は,ある場合はオフィスやここのような会議室で,またある場合は,たまたま廊下で行き合ったり,同僚が気にくわないので戸外を散歩しながら,行なわれる.
e-mailの場合もあれば,電話の場合もある.そして,そうした会話の内容をメモしていくと,そのミーティングをする理由によって場所も選ばれているのだということが理解できるようになってきます.また,同じ場所で複数のミーティングが行なわれることはないということにも気づきます.ミーティングにはじつにさまざまな種類があり,建物は,そのさまざまなミーティングの需要に合わせて設計されています.

この事実から,テクノロジーに仲介されたインタラクションとテレプレゼンスというテーマに立ち戻ってみると,問題点が見えてきます.問題は,われわれがたった一つのヴィデオ会議室しかもっていないということ──すべての会議が,予定されたものであろうとなかろうと,その企業の重役たちによる重要な財政会議であろうと,新人エンジニアたちの研修会議であろうと,すべての会議が,そのたった一つの同じ部屋で行なわれているという点です.
たった一つの場が,その組織のあらゆる人のための,あらゆる種類のミーティングをサポートできるなどと,果たしてわれわれは一度でも考えたことがあるでしょうか?
今日のテクノロジーのデザインはすべてこうしたアプローチ,つまり,中心となる場所,中心となる部屋というアプローチのもとになされています.これは,オフィスのすべての会議を同じ部屋で行なわなければならないと言っているのと同じことです.あまりにばかげています.みんな翌日には会社を辞めてしまいますよ.これが問題なのです.

重要なのは,ヴィデオ会議の装備がいかに高額であるかといったことではありません.中心に据えるべき考えは,現在のフェイス・トゥ・フェイスのミーティングと同じくらいいろいろな電子会議のための多様な場所を提供できるように,このテクノロジーを広く配備すること──これは,場所だけに限りません.サポートすべきミーティングの内容に応じても多種多様なかたちでなければならないのです.そうすることで初めて,豊かなミーティング環境が整います.つまり需要に対応したテクノロジーということになるのです.

ここで,話は第一点に戻ることになります.どのようなミーティングを行なうのか,どこで行なうのか,そのプロパティは……,なぜその場所で行なうのか.なぜオフィスや廊下ではなく,重役会議室で行なうのか.
ここに至って,デザイナーは「この場所」とは内容の異なる「あの場所」がどのようなものかを理解しはじめることになります.そして,その種のミーティングをシームレスにサポートするテクノロジーをどのようにデザインしたらいいか,考えることができるようになります.

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