InterCommunication No.15 1996

Feature


アクセス可能性,コンテクスト再現,
展示構成のシミュレーション


ーヴルでは10年前からコンピュータ技術が導入され,ことに7つの大きなセクション[6部1室]に所蔵されている延べ31万5千点にのぼる作品の資料,目録,貸出しの管理に利用されている.セクション毎の需要に合わせて,コンピュータの能力の活用状況にはかなりの違いが存在する.たとえばデッサン室のコレクションを構成する,きわめて脆く保存の難しいポートフォリオ形式の作品については,最近13万点がデジタル複製されて,物理的接触を経る危険を冒すことなくスクリーン上で閲覧できるようになった.また,古代オリエント部や,古代ギリシア・エトルリア・ローマ部では,地理的,歴史的に著しく隔たった作品のために適切なコンテクストを提供する必要が生じた結果,各部屋に設置される端末を通じて,常時作品に関するコンテクスト情報の検索ができるようなインタラクティヴ・プログラムの開発が行なわれることになった.その目的は,美術館を訪れる人々の鑑賞の範囲を拡大することにある.つまり,普通なら埋もれて見逃してしまうような小さな作品を,適切な大きさに拡大して見やすいようにしたり,あるいは逆に縮小することによって,たとえばルーヴル所蔵の巨大なアッシリアの浅浮彫のような,普通では一望できない遺跡の部分などを,もとのコンテクストに戻して全体として見ることができるようにするのである.こうして所蔵作品は自然の環境に戻され,作品がもともとあった場所を構成する土,岩,さらには動植物という背景を与えられることによってより精密な鑑賞が行なえることになる.
うしたデジタルによるインタラクティヴ・テクノロジーは,実際の鑑賞コースの中に目立たないように組み込まれて,普通なら公開されないような作品へのアクセスを可能にするとともに,作品に直接関係ない大量のデータを提供する無駄を防いで有益なコンテクスト情報を与えるのである.しかし,伝統的な美術館に導入されているコンピュータは,一般の人の目に触れない部分,たとえば作品の追跡管理などにも利用されている.絵画部と彫刻部では「作品の物理的管理(Gestion Physique des Oeuvres)」用の基本プログラムを活用して,修復や他館への貸出しで館外へ持ち出されている作品を常時モニターすることができる.また作品をヴァーチュアル映像にすることで,展示構成のシミュレーションが行なえる.たとえば[大蔵省の移転に伴う]リシュリュー翼の展示室の改装の際には,建築家でCGアーティストのジャン=ルイ・シュルマンがプッサンの間に展示するタブローのCGを作製したことによって,キュレーターのシルヴァン・ラヴェシェールは実物の絵画を動かすことなく,「ディスプレイ上」でイオ・ミン・ペイ設計の新しい部屋にプッサンのタブローをさまざまに配置してみることができたのである[★1].その後,同じ方式を踏襲した工芸部の求めに応じて,シュルマンは小型の工芸品の陳列モデルのCGシミュレーションを作製して,華やかでいたるところ金色づくめのシャルル10世ギャラリーの中に陳列した場合の視覚的インパクトを分析できるようにした.


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