ICC





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InterCommunication'96
シンポジウム・レポート
ショートスピーチ・サマリー
 
1996年10月21日(月)13:00−16:00 [終了しました.] 有楽町朝日ホール





シンポジウム・レポート


 NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)では,1997年4月,東京オペラシティ内の施設オープンに先立ち,毎年「アート&テクノロジー」をテーマにさまざまなイヴェントを開催してきました.第6回目にあたる「NTTインターコミュニケーション'96」では,科学と芸術の最先端で活躍する各国のオピニオンが「マルチメディア社会と変容する文化—科学と芸術の対話に向けて—」というテーマで論議する「ICC国際シンポジウム」を10月21日(月),有楽町朝日ホールで観客約600人を集めて開催いたしました.

 シンポジウムは冒頭,モデレイターの浅田彰氏より「マルチメディアを可能にした新しい電子情報技術は,経済社会を急速に変容させつつあると同時に,芸術文化の世界にも大変大きな影響を与えつつある.もともと技術と芸術は同じ一つの術だったが,近代社会にあって,それが非常にハードな技術の体系と主観的な芸術の表現とに分かれていたところを,今新しいメディアのテクノロジーがそれをもう一度違う形で結びつけようとしている.そこで今回のシンポジウムでは,必ずしもテクノアートの専門家だけにとどまらず,一方ではテクノサイエンスの側から,他方では他の芸術分野の側からさまざまな論客をお招きし,多面的なディスカッションを通して有意義な意見が交わされればと思っている」と,今回のシンポジウム開催にあたっての背景と主旨についての説明があった.

 その後,各パネラーによりそれぞれの専門分野の立場からのショートスピーチが行われた.(ショートスピーチサマリー参照)

 それぞれのショートスピーチの後,各パネラーを交えてのパネルディスカッションへと移行した.その中で,磯崎新氏による「ビデオインスタレーション,あるいはヴァーチャルなインスタレーションという形態を呈するメディア・アートなどの作品が置かれるアートの空間が,従来の美術館からどれだけの質的な変化,仕掛けの変化を必要としているのか,美術館という機構そのものがどのように組み替えられていきつつあるのか」という問題提起を契機に新しいかたちの美術館論についての意見が交わされた.まず,浅田氏より「これからの新しいミュージアムは,今まで別々であった美術館,博物館,図書館,あるいはデータベースといった機能を重層的にコンパクトに集めた一つのセンターにならなければならず,また,非常に濃密な情報の集積と変換と発信の場としてのそのような文化センターが21世紀に向けて必要とされている.そしてそういったビジョンを実現しようとしているプロジェクトが,ICCをはじめ世界で進められており,さらにそれらさまざまなセンターをネットワークで結ぶコミュニケーションシステムのようなものを構築することも夢ではなくなっているのが現状である」という意見が述べられ,それを受けてロイ・アスコット氏は「これからのミュージアムのデザインは,ほとんど脳のデザインをするぐらい複雑なことになってしまうかもしれない」という認識が示された.また,実際にそのようなミュージアムの設立にかかわっている立場であるジェフリー・ショー氏から「構想段階でのコンセプトを実現するためには,さまざまな機構,制度,機関をフランチャイズ化する方法が良い.しかしながら,世界各地で取り組まれているそのようなミュージアム建設のベースとなっている考え方はすでに時代遅れとなっている可能性があり,それらを実現するだけでは足りず,今後は否応なく現在,及び将来のことを取り込んで考えざるを得ない情況になっている」という指摘もあった.

 さらに会議の後半では,「インタラクティヴという言葉あるいは概念が,21世紀の芸術にとってある種のキーコンセプトに成り得るかもしれないという雰囲気があるが,19世紀以来,あらゆるメディアの中でわれわれがものを読んだり見たりすることは,それ自体その作品を変形し,転換し,他に向けて発信していくわけだから十分インタラクティヴなはずである.それなのに,今日言われているところのインタラクティヴが決定的に新しく,21世紀に向けて是非ともわれわれが必要としているということについて明確な答えが欲しい」という蓮實重彦氏による問いかけに対し,浅田氏は「別にインタラクティヴィティが新しいキーコンセプトだという雰囲気は,そんなに濃厚には漂ってはいないと思う」とした上で,「いわゆる視聴者参加という形でのインタラクティヴシステムは,実際はプリセットされたいくつかのメニューの中から選択するだけで,そのようなものを超えた本当の意味でのインタラクティヴィティが可能かどうかが問われているのではないか」という意見を示した.また,ショー氏は「インタラクティヴィティという言葉が脚光をあびてきたのは,テクノロジーの発達がその背景にある.さまざまな新しい技術により,利用者が音声,視覚の情報を再編成,再構成できるようになり,かつてはできなかったような対話性が可能になった.このことが今までとは大きな違いであり,だからこそ新たな可能性が生まれている」と述べて蓮實氏の問いに答えた.さらにミンスキー氏により「芸術の形態としても,ただ単に経験を与えるだけではなく,新しい思考方法を与えるものに興味がある.もともとアーティストが何を意図したかということをそっくりそのまま享受しなくてもいいのではないか」という意見も付け加えられた.

 シンポジウムの最後に浅田氏は「いずれにしてもICCが来年の4月にオープンし,ショー氏の作品や磯崎氏の企画展もその中に含まれている.また,将来にわたってさまざまなネットワーク上のイヴェントやライヴのイヴェント,あるいはこのようなシンポジウムといったものが予定されている.是非来場された皆さんがそれら新しい企画の中に活発に参加していただき,インタラクティヴィティを発揮して企画者たちが思ってもみなかったような方向にこの対話の試みを導いていただければいいのではないか」と述べて会議を締めくくった.

 今回のシンポジウムは,ジャンルを超えた各専門分野のオピニオンたちを迎えて,マルチメディアを「産業の問題」ではなく,21世紀の「文化の問題」ととらえた初めてのシンポジウムとして,マルチメディアをめぐる議論に新たな視点を提供したという点で意義深いものであったと考える.しかしながら,このような議論はここにまだ始まったばかりであり,ICCに限らずさまざまな場においてこの種の議論が活発に行われていくことが重要であろう.