情報は自由を求めている

21世紀の経済システム

もちろん,情報を無償で公開すれば必ず報われる,というようなきれいごとで解決するほど問題は簡単ではない.インターネットが爆発的に拡大したのは,1991年に商業利用が認められてからだということも忘れてはならない.すべてのソフトウェアがオープンソースで開発されることはありえないから,開発者に一定の利益を還元する仕組みも必要だ.

しかし,グヌーテラのように完全な分散型になると,著作権のような法的な仕組みで情報を守ることは不可能である.国境を越えたインターネットの世界で普遍的に通用する力は(ソフトウェアの)コードだけだから,音楽を絶対にコピーされたくないミュージシャンは,マスタリングのときに暗号化するなど「自己責任」によって作品を守るしかない.

市場が資本主義のインフラだったように,インターネットは21世紀の新しい経済システムのインフラとなるかもしれないが,所有権と価格に代わる有効なメカニズムはまだ見出されていない.それは今後,試行錯誤で見つけてゆくしかないが,重要なのは既得権を守って消費者に不便を強いる「縮小均衡」の道ではなく,情報を自由に共有しつつ消費者と生産者がともに利益を得られる道を探ることだ.そのためには,現在の著作権法などの制度を抜本的に見直すことが不可欠だろう.

多分「パンドラの箱」はもう開いたのだ.これからは音楽だけでなく,映像もこうした超分散型のシステムで共有されるようになるだろう.それは,著作権の壁に阻まれてきたマルチメディア・ビジネスが開花するきっかけとなるかもしれない.新しいメディアのあり方は,訴訟やロビー活動によってではなく,市場で決めるべきである.


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